第133話 帰還と新たな馬

 騎士団の皆は乗馬をする機会があるので馬に慣れているらしく、上手く馬を誘導して歩かせてくれている。馬達も賢いという評判通り、もう暴れることはないみたいだ。


「三頭増えるだけでも違うかな」

「全然違うと思います。特にこっちの二頭は雌みたいなので、子供を産ませることもできるかもしれません」

「そうなんだ! それは幸運だね」


 王宮にいる馬達は繁殖が難しくなってきてるって話だったし、新しい子達が入って風向きが変わると良いな。やっぱり全く別の血が入ると変わるだろう。


「この子はまだ子供と言っても良い歳ですし、これからが楽しみな馬ですね」

「こっちの男の子?」

「はい。少しやんちゃそうですが、強い馬になりそうです」


 ヴィッテ部隊長はそう言って、馬達の背中を撫でた。ヴィッテ部隊長も馬が好きなんだな……性別とか若さとか性格とか、俺には全く分からない。パッと見てそれが分かるのは結構凄いだろう。


「王宮にいる馬の世話ってもちろん厩務員がやってるんだろうけど、騎士団もやるの?」

「はい。乗馬は馬との信頼関係が大切ですから、私達も交代で世話をしています」

「そうなんだ……大変なんだね」


 俺は馬の世話なんて興味を示したこともなかったな。うちにも馬がいるんだし、たまには厩舎に行ってみるのもありかもしれない。いつも馬車を引いてもらってるんだし。


「馬は手を掛けただけ懐いてくれるので、とても可愛いですよ」

「俺も今度世話をしてみるよ」


 そうしてそれからも話をしつつ、襲ってきた魔物を倒しながら森の中を進み、まだ明るい時間帯に森を抜けることができた。

 門を通って街中に入ると、安心して体の力が抜ける。


「初めて一泊での探索だったけど、無事に帰って来られて良かったよ」

「騎士団一同、怪我人はおりません」

「冒険者もです」

「報告ありがとう」


 門前にあるちょっとした広場には、俺達が連れてきた馬を一目見ようと近くに住む人達が集まってきている。


「新しい馬を捕まえたみたいだぞ!」

「すげぇな!」


 そんな賞賛の声がそこかしこから聞こえてくる。馬はかなり貴重な移動手段なので、特に平民の間では憧れの的なのだ。


「騒ぎになっちゃうし王宮に移動しようか。冒険者の皆はここで解散で良いよ。騎士団の皆だけはもう少し付き合ってくれる? 馬を連れて行かないといけないから」

「かしこまりました」

「では我々はここで失礼いたします」

「うん。またよろしくね」


 騎士団の皆と馬を引き連れて王宮へ戻ると、いつものように報告を受けていたのか、ファビアン様とマティアスが出迎えに来てくれた。


「フィリップ、馬を見つけたとは大収穫だな」

「はい。森の奥、いつもは足を踏み入れていない場所で見つけました。したがって、もっと森の奥を探索すれば、他にも馬がいる可能性は高いと思います」

「それは朗報だ。馬を見つけに行くための部隊を編成するのもありかもしれないな」


 馬が増えれば馬車を増やせて、それによって人々が移動する距離が増えるので経済が活性化することは間違いない。ここは力を入れるところだろう。


「フィリップ、今回の収穫は馬だけだったの?」

「ううん。他にも二つの野菜と一つの果物を見つけてきたよ。その野菜が凄く美味しくて万能なんだ。しかも甘い味だから、デザートになるよ」

「果物じゃなくて野菜が甘いの?」

「そう」


 俺がサツモの美味しさを思い出して頷くと、騎士団の皆も今朝の食事を思い出したのだろう、うっとりとした表情でサツモの美味しさを語った。


「サツモは粘り気のある独特な食感ですが、とても甘くて味が濃くて本当に美味しかったです」

「あれは毎日でも食べたいですね……」

「そんなに言われたら気になっちゃうよ」


 サツモはまだ残ってるからあげても良いけど、もう時間が遅いんだよな。そろそろ空が暗くなってくるだろう。今から焼きサツモを作るのは無理だし、また今度かな。


「サツモを植えるときに一緒に焼きサツモも作って、マティアスのところに持っていくよ。もちろんファビアン様の分も用意します」


 ファビアン様からの強い視線を感じて最後の一文を付け足すと、ファビアン様は良い笑顔で頷いてくれた。


「楽しみにしている」

「かしこまりました。では暗くなる前に馬を厩舎まで連れて行きたいので、移動しても良いでしょうか?」

「そうだな。馬を頼むぞ」

「もちろんです。しっかりと引き渡して参ります」


 そうして俺はファビアン様とマティアスと別れ、騎士団の皆と共に厩舎に向かった。初めて来た厩舎はかなり立派な作りで、働いている人も大勢いるみたいだ。事前に伝達がされていたようで、俺達が近づくとすぐに厩務員の代表者が出てきてくれる。


「お待ちしておりました。とても立派な馬ですね……!」


 代表者の女性は相当馬が好きなのか、瞳を輝かせて三頭の馬に近づいた。そして慣れた様子で鼻を撫でてから、首元を軽く叩いてコミュニケーションをとる。


「雌が二頭と雄が一頭、雄はまだかなり幼いですね。この雌もまだ若いな……母親と子供二人でしょうか? 近くに父親はいなかったのですか?」


 家族だったのか……そんなの考えもしなかった。他の魔物の気配はなかったし、少なくとも近くにはいなかったはずだけど、もしかして家族を引き離しちゃったのだろうか……それは悪いことをしたかも。


「ヴィッテ部隊長、他に馬はいなかったよね?」

「はい。確認できる範囲にはいませんでした」

「そうなのですね。馬は父親が餌を集める習性はありませんし、近くにいないとなると……父親は家族から離れたか魔物にやられてしまったか、どちらかですね。父親がいないとなるとこの三頭も危なかったかもしれません。フィリップ様、保護してくださってありがとうございます」


 女性はそう言って俺に対して頭を下げ、すぐ馬達に視線を戻した。馬の習性を熟知して世話してるんだな……こういうふうに専門知識がある人ってカッコ良い。


「父親が家族から離れるって、馬達の間ではよくあることなの?」

「そうですね。私が知っている限りでは頻繁にとまでは言わないまでも、そこそこの頻度で発生すると思います。馬の雄というのは気が多いと言いますか、別の雌に目移りすることはよくありますので」


 そうなのか……知りたくない馬の習性を知ってしまった気がする。でも野生で生きてるんだし、子孫繁栄を考えたらその方が良いんだろうな。確か馬って雌が生まれる確率の方が高いって何かで読んだ気がするし。


 そういえば前の世界の研究者で、魔物は保有魔力量が少ないほど雌の割合が高くなるんじゃないかって研究してる人がいたな。研究資料を読んだことがあって、面白いなって思ったんだ。まあ理論を立証はできてなかったんだけど。


「じゃあその子達をよろしくね」

「かしこまりました。立派な馬に育ててみせますので、お任せください」


 そうして俺達は厩務員に馬を引き渡して、今日はその場でそのまま解散とした。初めて泊まりで森へ探索に行ったけど、成果をあげられて良かったな。これからは泊まりも視野に入れて森の探索ができると考えると、もっと色々なものが見つけられそうだ。

 この国をもっと発展させられるように頑張ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る