第132話 嬉しい出会い
灰の中にサツモを入れてしばらく放置していると、段々と日が昇り森の中が明るく照らされ始めた。
朝だな……太陽って偉大だ。俺はハインツの時から、外で野営をするたびにこんなことを考えていた。暗い夜を外で過ごすと、より太陽のありがたみを感じることができるのだ。
「フィリップ様、おはようございます」
「おはようございます。見張りをありがとうございます」
明るくなったことで起き出した皆を代表して、パトリスとヴィッテ部隊長が礼を述べてくれた。俺はそれを受け取って、さっそくサツモの話をする。
「昨日採取したサツモなんだけど、せっかくなら今日の朝ご飯で食べようかと思って焼いてるんだ。そろそろちょうど良い頃合いだと思うんだけど……」
頑丈な木の枝を使って灰から一つだけサツモを取り出してみると、皮が真っ黒に焦げていた。魔法陣魔法を使って手で持てる程度にまで冷やし皮を剥くと……中は全く焦げていなく、完璧に火が通っているようだ。
「成功だ」
「なんだかとても美味しそうな香りですね……」
湯気が出ていて、今すぐにかぶりつきたい香りを発している。見た目では蜜が多い個体なようで、とにかく甘くて美味しそうだ。
「じゃあさっそく食べようか。一人一つはないから三人で分けてほしい。ニルス、包丁で切り分けてくれる?」
「もちろんです」
それからは皆で協力してサツモを灰の中から取り出し、それぞれ皮を剥いて三つに切り分けた。そして出来立ての焼きサツモを皆で一斉に口に入れる。
「うわっ、めちゃくちゃ美味しい」
焼きサツモってこんなに美味かったっけ? ハインツの時はバターをつけないと好きじゃないとか変なこだわりを持ってたけど、マジであの時の俺は馬鹿だった。バターなんか無くたってこれだけで最高に美味い。
「これは驚きました……ただ焼いただけなんですよね?」
「うん。火が消えた後の灰の中に入れておくだけだよ」
「それだけでこんなに美味いとか、革命です」
「野営の救世主になりますね。サツモって手を加えなければ、どれくらいの期間保存可能なのでしょうか?」
「そうだね……採取した状態のままなら、二ヶ月から三ヶ月は確実に保つと思う」
品種にも保存状態にもよるけど、概ねその程度だ。常温で長い間保存できるものは、本当に貴重だしありがたいよな。
「サツモは早急に生産していただきたいです」
「了解。コレットさんに話をして、農家の皆に伝えてもらうよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
それから皆は一瞬で焼きサツモを食べ終え、誰もが幸せそうな表情で野営の片付けをした。そして休むことなく、さっそく街に向かって歩き始める。
時間的には余裕があるとはいえ何かトラブルがあって遅れ、日が暮れるまでに街に着けなかったら大変なので、早めの行動を心がけているのだ。
「フィリップ様、帰り道も新しい作物がある場合のみ採取で良いでしょうか?」
「うん。それでいこう」
「かしこまりました」
昨日通った道を引き返してるので、道がしっかりと踏み固められていてとても歩きやすい。この調子ならお昼を少し過ぎた辺りで街に着くんじゃないだろうか。
そう安堵しつつ森の中を進んでいると……ふと俺の視界に見知った魔物が映った。俺は思わず足を止めて、魔物がいるだろう場所を凝視する。
「フィリップ様、いかがいたしましたか?」
「皆、静かにしてね。……多分だけど、あそこに馬がいる。野生の馬だと思う」
馬がいるとかめちゃくちゃラッキーだ。数を増やしたくても、子供を産める馬はもう少なくて、どうしようかと悩んでいたところだったのだ。
まさか野生の馬が生息してるとは。絶対に逃しちゃダメだ。
「捕まえますか?」
「うん、絶対に捕まえたい。ニワールの時みたいに周囲から取り囲んで捕まえよう。できれば怪我をさせないように優しく、でも逃さないようにお願い。手懐けられてない馬は蹴りが怖いから気をつけて」
捕まえたら胴体に巻き付ける用の縄をできる限り多くの人に渡して、馬に気づかれないように周りを取り囲んでもらう。
森の中を歩くのに慣れている冒険者が、現在地から一番遠い場所に向かってくれた。
「フィリップ様、捕まえたとして暴れないのですか?」
「暴れる子もいるだろうけど、馬って頭が良いから逃げられないと悟ったら暴れなくなるよ。そしたら後はだんだんとコミュニケーション取っていけば良いから。馬が好きな餌も準備しておいた方が良いかも」
馬は色々と食べるけど、確かムギなど穀物の藁を好むんだったはずだ。後はアプルも好きだったはず。少しなら空間石に入ってるし、その辺をあげて少しでも心を許してもらえるように頑張ろう。
そんなことを考えている間に皆が位置についたようだ。パトリスとヴィッテ部隊長から合図が来て、俺が計画開始の合図をすると、皆が一斉に馬に向かって距離を縮め始めた。
「三頭の群れだったみたいだ。親子かな」
「そうかもしれませんね」
馬は皆が近づいているのに気付くと、慌てた様子でこの場を立ち去ろうと地面を蹴った。しかし向かった先にも冒険者がいて、器用に馬の勢いを殺して捕まえる。
「おおっ、皆は凄いね」
「本当ですね。かなり暴れていますが、しっかりと捕えられたようです」
それから数分で、三頭の馬は全て縄に繋がれた状態になった。さすがの手際の良さだな。
「俺達も行こうか」
まだ興奮している様子の馬達に近づいていくと……馬は俺を攻撃しようと鼻息荒く足を動かした。突然身動きを封じられたのだから当然だろう。
「こんにちは。俺は君達に危害を加えるつもりはないよ。これからは良き相棒として生活を助けてもらいたいと思ってるんだ」
通じてるのか分からないけど、優しい声音を意識して声をかけた。そしてゆっくりともう一度近づいていく。すると先ほどとは違い、馬達は俺のことをじっと見つめているだけで攻撃しようとはしなかった。
俺はそんな馬達の様子を見て、まずは水分補給からと、大きめの桶に水を満たしてそれぞれの馬の前に置いてみた。すると馬達はしばらく警戒していたけれど、喉が渇いていたのか水を飲み始める。
「良かった、飲んでくれた」
「賢い良い子達ですね」
思わず溢れた一言に、ニルスが優しい声音で反応した。ニルスは馬が好きなのだ。うちにいる馬のこともかなり可愛がっていて、空いた時間によく厩舎へ行っている。
「餌をあげても良いと思う?」
「水を飲んでくれたのならば、あげても大丈夫だと思います」
「了解」
空間石から藁とアプルを一つずつ取り出して目の前に置いてあげると、どの馬もまずはアプルに口を伸ばした。そして器用にアプルを齧って食べていく。
「美味しいみたい」
「馬はアプルが好きなのですね」
「そうなんだよ。普段はアプルを馬にあげるなんてことはできないけど、今は関係性を深めるためにもね。多分この子達は野生でアプルを食べたことがあるだろうし」
それから十分ほど馬達が食事をするのを待ち、最初よりもかなり大人しくなったところで、馬を引き連れて街に帰ることにした。
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