第131話 新たな作物と野営
目を凝らして見てみると……葉の下に隠れるように、俺が知っている万能な野菜が実をつけていた。あれはカボだ! サツモではなかったけど、サツモと同じように甘みがあってスイーツにも使える野菜だ。
「パトリス、あの植物を採取したい」
「あの……濃い緑の実が付いているやつでしょうか?」
「そうそれ!」
「かしこまりました。少々お待ちください」
カボは保存するのに優れてるし栄養豊富だし、何よりも甘みがある野菜だし嬉しいな。パンに練り込んでもスープに入れてもそのまま焼いても、何をしても美味しいだろう。早く食べたい……でもしばらく置いた方がより甘くなるって聞いたことがあるし、もう少し我慢するべきかもしれない。
「これ、随分と重いですね」
「本当だな」
カボを手にした冒険者達からそんな会話が聞こえてくる。重いってことは、中身が詰まってるのだろう。ちょうど運良く収穫時期だったのかもしれないな。
それから数分で収穫を終えて、カボは空間石に全て収納された。これでまた畑の作物が一種類増えた。
そこからの俺達は森の奥まで入ることの意義を実感し、カボを見つける前よりも気合を入れて足を進めた。
そして数時間が経過して空が茜色に染まり始めた頃、俺達は歩みを止めて野営の準備を始めていた。ここまでの成果はカボの他に二つだ。
一つ目はカボを見つけた一時間後ぐらいに発見したサツモ。そう、運良くサツモも見つけることができたのだ。これで甘いスイーツのバリエーションが増やせる。
そして二つ目はベリーだ。ベリーとは甘さの中に酸味もある爽やかな果物のことで、これが美味しいんだよな……ジャムにすればパンに最高に合うのだ。
「フィリップ様、夕食の調理をお願いしても良いでしょうか」
「もちろん。美味しいものを作るから任せて」
今回の役割は俺達三人が夕食作りで騎士団が寝床の確保、そして冒険者の皆が周辺の捜索と見張りだ。俺はハインツだった時代に野営は何度も経験しているので、今回は夕食作りに立候補した。
さっそく作っていくかな。人数も多いし夕食はスープで決定だ。俺は空間石の中から平らな石を取り出して地面に設置し、魔法陣で石の上に火を発生させてから大きな鍋を載せた。そして鍋の中には魔紙を使って水を満たす。
「ニルス、さっき手に入れたカボを切ってくれる? 一口サイズぐらいかな。固いから気をつけてね。フレディはさっき狩ったニワールの肉を、捌いて食べやすいように切り分けて欲しい」
「かしこまりました」
カボは確認してみたところ熟れていそうだったので、夕食に使ってみることにしたのだ。久しぶりのカボ、楽しみすぎる。
カボとニワールの肉だけでも豪華だけど……いくつか野菜を持ってきたから、それも入れるかな。俺は空間石からレタとオニンを取り出して、食べやすいように一口大に切り分けた。
これでスープの具材は十分だろう。ニワールの肉を入れることで旨味が出て美味しいだろうし、カボで甘味も出て今までこの国ではなかったようなスープになるはずだ。
「ニルス、カボが一番火が通るの遅いから、最初に鍋に入れてね」
「はい。このぐらいのサイズで良いのでしょうか?」
「うーん、火が通りやすいようにもう少し薄くしてもらおうかな。半分ぐらいに」
「かしこまりました」
そうしてカボが鍋に投入され、そのタイミングでちょうどお湯がぐつぐつと沸騰を始めたので、魔法陣を少し弄って火力を弱めた。そしてしばらくしてからレタとオニン、さらにニワールの肉を投入する。
「美味しそうですね。お腹が空きます」
「分かる。ニワールの肉が入ると一気に良い香りになるよね」
もう肉にも火が通ってそうだし、フォークを刺してみたらカボもかなり柔らかくなっていた。後は味を整えれば完成だ。塩で味を整えて、香辛料もいくつか入れる。
レードルで器に少しだけスープを掬って味見をしてみると……めっちゃ美味い。これは大成功だ。
「ニルス、フレディ、味見してみる?」
「ぜひ」
「ありがとうございます」
器を受け取ってスープを口に入れた二人は……瞳を見開いて驚きをあらわにした。
「これ、凄く美味しいです。驚きました」
「少し甘みがあるのはカボでしょうか? フィリップ様は料理の才能もおありなのですね」
「いや、簡単な料理しか作れないよ」
俺が作れるのはスープぐらいだ。後は卵を焼くだけとか肉を焼くだけとか、その程度しかできない。あくまでも野営の時に作ってた経験しかないから。
「フィリップ様、寝床の準備が整いました!」
「ありがとう。こっちも夕食がちょうど出来上がったよ。じゃあ騎士団から夕食にしようか。パトリスー、それでも良い?」
少し遠くで見張りをしてくれていたパトリスに声を掛けると頷いてくれたので、俺達はさっそく夕食にすることにした。器を持って鍋の前に並ぶ騎士団の皆に、順番にスープを注いでいく。肉は一人一つで偏らないように気をつけた。
「うわっ、めちゃくちゃ美味いです!」
「外でこんな料理が食べられるなんて……凄いな」
「なんだこれ、美味い」
そこかしこから絶賛の声が聞こえて来る。俺はその様子に満足して、自分でもスープを堪能した。そしてその後に冒険者の皆と見張りを交代して全員が夕食を済ませ、俺達は騎士団の皆が準備してくれた寝床に横になった。
今日は最初に騎士団の半分が見張りをしてくれて、夜中の時間は冒険者の皆、それから朝方の時間は俺達と残りの騎士団の皆だ。
見張りの交代で起こされて目を開けると、まだ辺りは真っ暗だった。しかしあと少しで空が明るくなり始めるのだそうだ。
「フィリップ様、見張りをお願いいたします」
「うん、任せて。皆は朝食ができるまで気にせず寝てて良いから」
少し眠そうなバトリスと小声でそんな会話をして交代し、俺達は見張りの位置についた。まだ朝食を作り始めるのには早すぎる。
今日の朝食は空間石に人数分持ってきてあるパンを食べるだけにする予定だったんだけど……どうせならもう少し美味しいものも追加しようかな。昨日サツモをたくさん採取することができたし、焼きサツモを三分の一ずつぐらいなら十分に食べられるだろう。
今日のお昼は抜きの予定だったけど、そうすればパンを昼食に回すこともできるし、一石二鳥だ。
「ニルス、朝ご飯で焼きサツモを作りたいから焚き火をしたいんだ。枯れ枝と枯れ草を集めてもらっても良い?」
「かしこまりました。フレディにも手伝わせます」
「うん。よろしくね」
見張りをしている騎士団の皆にも朝食の準備をすることを伝え、見張りを抜けて昨日の夜に夕食を作った場所で焚き火を始めた。
サツモを焼くには濡らした紙とか燃えない素材で包みたいんだけど……それはないから、火加減を上手く調節してやるしかないかな。確か火が消えて熱い灰だけになったところにサツモを入れれば、上手く作れるんだったはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます