第126話 日頃のお礼
三人で一緒にまずは父上の執務室に向かうと、ちょうど母上も執務室にいた。二人で仕事に関する話し合いをしていたようだ。
「父上、母上、少し早いですが食堂に来ていただけないでしょうか?」
二人は俺の言葉を聞いて、マルガレーテとローベルトのキラキラと輝く瞳を見て、苦笑を浮かべつつすぐに椅子から立ち上がってくれた。
「もちろんだ」
「何があるのかしら。楽しみだわ」
「あのね、あのね、とってもおいしかったの!」
ローベルトはさっき食べたピザの美味しさを伝えようと必死だ。もう隠す意味もないし良いか……既に全くサプライズにはなってないから。
「お父様、私が作ったものは可愛いのです!」
「そうなのか? それは楽しみだな」
「ぼくのもだよ! あねうえのまねしたの!」
そうしてテンション高い二人のことを父上と母上が優しい瞳で見つめ、穏やかな雰囲気で食堂に到着した。
本当にこの家族は羨ましいほどに仲が良いよな……俺は後ろから四人の様子を見ていたら何故か急にそんなことを考えてしまい、疎外感を感じてほぼ無意識に足を止めた。
「フィリップ、どうしたんだ?」
「二人のお世話に疲れたのかしら。いつもありがとう。感謝しているわ」
しかしすぐに足を止めた俺に気づいて、父上と母上が振り返ってくれる。二人の俺を見つめる瞳は、マルガレーテとローベルトに向けていた優しい瞳と全く同じだった。
俺はそれが凄く嬉しくて、思わず泣きそうになりながらもそれを振り払って笑顔を浮かべた。俺もこの家族の一員だなんて……幸せだ。
「大丈夫です。二人は可愛い弟妹ですから当然ですよ」
「それなら良いのだけど。そうだ、フィリップはどんなものを作ったの?」
「えっと……美味しいものです」
「ははっ、それは楽しみだな」
「フィリップが美味しいっていうのなら、本当に美味しいのでしょうね」
「もちろんです。期待してください」
そうして俺達は、五人で食堂へ足を踏み入れた。
俺達が席に着いて少しだけ話をしていると、すぐにクロードがワゴンを押して食堂に入って来た。すると途端に、食堂中にピザの良い香りが広がる。
「おおっ、凄い香りだな」
「とても美味しそうだわ」
「お待たせいたしました。ピザという新しい料理でございます。フィリップ様、マルガレーテ様、ローベルト様が二種類ずつ作られて六種類のピザがありますので、切り分けて一片ずつお皿に盛り付けてあります」
クロードがそう言って給仕してくれた皿には、綺麗にピザが盛り付けられていた。どれも凄く美味しそうだ。あれ、でも五つしか載ってないな。
「マルガレーテ様が作られた一つのピザは、切り分ける前の状態がとても綺麗でしたので、そちらも見ていただくべきかと思いましてそのままお持ちいたしました」
そう言ってクロードは皆が見える位置に、マルガレーテが作ったレタで可愛い葉っぱの形を作ったピザを置いた。
「まあ、とても可愛いわ」
「本当だな」
「ありがとうございます!」
マルガレーテは二人に褒められてかなり嬉しそうだ。頬を赤く染めて瞳を輝かせている。それからマルガレーテのピザもその場で切り分けられて、六種類全てが給仕された。
「父上と母上に日頃の感謝を込めて三人で作りました。ムギ粉を作った新しい料理です。食べていただけたら嬉しいです」
「ぼくはね、これとこれ作ったの!」
「私はさっきのピザとこれです!」
「三人とも……本当にありがとう。とても嬉しいわ」
「本当に美味しそうだ。三人とも凄いな。では冷めないうちにいただこう」
母上は俺達が感謝を込めて作ったという部分で瞳に涙を浮かべ、父上も嬉しそうに目を細めている。
「光の神、ティータビア様に感謝を」
全員で祈りを捧げて食事開始だ。俺がまず手にしたのは、自分で作ったジャモのピザだ。具材が溢れないように両手で持って口に運ぶと……口の中に幸せな味が広がる。
やばいな、やっぱりピザは最高に美味い。チーズがなくてもトマソースがあるだけでピザそのものだ。ワイルドボアの肉が良い旨味を出していて、上からかけた塩が良いアクセントになっている。
「なんだこれは……」
「美味しすぎるわ。美味しすぎて……なんて表現したら良いのか分からないわね」
「お母様、私のピザも食べてみてください!」
「ぼくのも!」
二人が手にしていたのは俺が作ったピザだったので、マルガレーテとローベルトが焦れたようにそう言った。二人はその言葉に苦笑し、父上がローベルトのピザを、母上がマルガレーテのピザをまず口にする。
「おおっ、このピザも美味いな。これは肉がたくさん載っていて旨味が出ている」
「にくがすきだからね、ぜんぶのせたの!」
「マルガレーテのピザも美味しいわ。これはレタとトウモね。トウモの甘さがトマソースに合うわ」
「本当ですか! 私のけっさくなのです!」
父上と母上に褒められて二人はご満悦だ。ピザを一緒に作る案は正解だったな。それからもう一つのマルガレーテのピザであるラディが大量に載ったピザ、ローベルトのピザであるレタとトウモが散りばめられたピザも皆で堪能し、とても美味しくて幸せな雰囲気の中で昼食は進んだ。
「あにうえ、そろそろわたす?」
するとピザを半分食べ切った頃に、ローベルトが小声で俺にそう聞いてきた。そろそろブローチを渡したいのだろう。こっちは本当にサプライズにすることができたから、母上は驚くだろうな。
俺は空間石からブローチをこっそりと取り出して、ローベルトの手のひらの上に載せた。するとローベルトは嬉しそうに頬を紅潮させ、瞳を輝かせてやる気満々で頷いた。
椅子から降りて母上の下に向かったローベルトは、短い手をいっぱいに伸ばして母上にブローチを渡す。
「ははうえ、これプレゼント!」
「……私に?」
「そうだよ! あのね、ぼくがおにわで見つけたまこうせきを、あにうえがブローチにしてくれたの!」
母上はその説明を聞いて俺の顔を見て、ローベルトに視線を戻してから、呆然としながらもブローチを受け取った。そして少ししてから瞳から涙をこぼし、とても綺麗な笑みを浮かべる。
「ローベルト、とても嬉しいわ。本当に、本当にありがとう」
「えへへ、ぼくもうれしい!」
「一生大切にするわね」
「とても綺麗なブローチだな。ローベルト、良い子だ」
父上がブローチを覗き込んでローベルトに声をかけると、ローベルトは父上へのプレゼントがないことに気づいたのか、ハッとした表情で少し固まった。
「ち、ちちうえには……ぼくの、ピザをあげる!」
あげられるものがあることに思い至ったローベルトは、途端に顔を明るくして自分の席に戻った。そしてお皿を手にしようとしたところを、父上の慌てた声が止める。
「ローベルト、私はもうピザをたくさん貰っているから大丈夫だ。三人から六つもプレゼントを貰ったぞ」
そう言ってピザが載った皿を掲げた父上に、ローベルトは納得したのか「良かった」と笑顔で呟いて、お皿をもう一度従者にテーブルへと戻してもらってから席についた。
そんなローベルトのことを、全員が微笑ましい表情で見つめている。
そうしてそれからも和やかな雰囲気で食事は進み、俺達のサプライズは大成功で終わりとなった。
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