第125話 トッピングと焼きたてピザ

 俺はフライパンの上で冷ましていたトマソースを少しだけスプーンで掬い、もう火傷の心配はないほどの温度になっていることを確認してから、三つの器にソースを分けた。そしてマルガレーテとローベルト、それぞれに一つずつ器を手渡す。


「じゃあ二人とも、これからピザを完成させていくよ」

「うん!」

「まずはピザがどんな料理かなんだけど、クロードが作ってくれたこの丸い生地に、俺達が作ったトマソースを隙間なく塗って、さらにその上に野菜や肉などの食材を載せて焼いたものなんだ。二人にはこれから、トマソースを塗って食材を載せる工程をしてもらうからね」


 俺のその言葉に二人が楽しそうに手を挙げて、良い返事をしてくれた。とりあえず二人が楽しそうで良かったな。


「トマソースはスプーンで優しく塗ってあげてね。食材はそこにあるやつなら何を使っても良いから、包丁を使いたい時はクロードにお願いすること」

「はーい! じゃあさっそくやっていい?」

「可愛く作りたいです!」

「もちろん良いよ。じゃあ作ろうか」


 従者もメイドもクロードも、全員が二人を微笑ましそうに見守るほっこりする空間だ。俺はそんな空間に癒されつつ、ピザを完成させるためにスプーンを手にした。


 トマソースをたっぷりと、しかし端の部分は少しだけ残すように丁寧に塗った。そしてまずは一つ目のピザの具材を決める。

 トマソースに合うように、肉は淡白なビッグラビットにしよう。そしてトマの味わいをより感じられるように、切り分けたトマも載せようかな。そしてすり潰す前の香辛料をいくつか彩のために載せる。


 本当はさらにチーズを載せられると美味しさが倍以上になるんだけど、この国にはチーズなんてあるわけないのでそこは我慢だ。

 チーズを手に入れるためには、まずホワイトカウっていう魔物から取れるミルクが必要だ。何度か森に入ったけど、ホワイトカウには一度も遭遇してないんだよね……冒険者や騎士に聞いても、そんな魔物は知らないって言われてしまった。


 多分この辺の気候とは合わない魔物なんだろう。王都周辺にはいなくても、別の領地には生息してたら良いんだけど。この国にいないってなると、入手難易度がかなり上がってしまう。


「お兄様! 見てください!」


 マルガレーテの声に促されて二人の方を見てみると、ローベルトはトマソースを塗るのに苦戦して従者に手伝ってもらっているところだったけど、マルガレーテは一人でなんとか一つを作り上げたようだ。


 レタを可愛い葉っぱの形に並べたみたいで、その中にはトウモが敷き詰められている。なんとも子供らしい可愛いピザだ。


「凄く可愛いね」

「あねうえすごい! ぼくもそれやりたい!」


 ローベルトが瞳を輝かせるのを見て、マルガレーテは満足そうだ。


 俺は二人がまたピザ作りに熱中するのを見届けて、二つ目のピザを作ることにした。二つ目はどうするかな……ジャモを使ったピザにするか。


 細かく切ってもらったジャモを散りばめて、今度はジャモでトマソースの味が少し薄まるので、肉は味が濃いワイルドボアの肉にした。歯ごたえがあるように大きめにカットしてもらって、多めに載せる。

 さらにジャモと合う野菜ということで、細かく切ってもらったオニンも多めに載せた。うん、完璧だ。


 それから二人のトッピングが終わるまでしばらく待ち、六つのピザが全て完成したところで皆で厨房の外に移動した。ピザ窯の近くにテーブルを置いて、その上にピザを載せる。


「じゃあピザを焼いていこうか」


 でもこのピザ窯の大きさだと……一度に焼けるのは二個までだ。どうしようか、順番に焼くのでも良いけど、俺なら追加で二つのピザ窯を作るぐらいはできる。

 簡易のものならそんなに頑丈にしなくて良いし、それなら魔力もそこまで必要ない。その代わりにすぐ壊れるだろうけど、使うのは今回だけだから良いだろうし。


 俺はそこまで考えて追加でピザ窯を二つ作ることにした。二人には危なくないように離れたところで待っていてもらい、魔法陣に詳細を書き込んでいく。


「あにうえすごい!」

「お兄様、さすがです!」


 魔法陣が発動してピザ窯ができたところで、二人は手を叩いて称賛の言葉を送ってくれた。ふぅ、二つ作るのはいくら簡易のものとはいえかなりの魔力を消費したな。でも成功したから良いだろう。


「クロード、この二つにも火を入れて欲しい。それで六つを一気に焼きたいんだ」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 クロードが他の使用人も呼んできて窯に火を入れ、窯の中にピザが入れられた。なんだかテンション上がるな……ちょっと楽しいかも。


「どのぐらいで焼けるのでしょうか?」

「火力にもよるんだけど、数分で焼けると思うよ」

「そんなにはやいの?」

「多分ね」


 クロードはピザ窯の中を凝視して、何度かピザを出し入れして焼き具合を見極めている。そしてピザを焼き始めてから数分後、クロードはピザを窯から出し始めた。


「ニルス、そっちのピザも出してくれ」

「分かった」


 ピザを取り出す人手が足りなかったようでニルスも駆り出された。そうして焼きたてのピザが六つ、テーブルの上に並ぶ。

 めちゃくちゃ良い匂いがして見た目は最高で、とにかく美味しそうだ。トマソースの香りとパンの少し焦げた香り、さらに肉が焼けた香りもする。本当にお腹が空くな。


「おいしそう! たべたい!」

「ちょっと味見をしてみようか。俺が作ったトマソースにチキンのピザを食べてみよう」


 俺はクロードにピザの切り分け方を教えて、切り分けた一枚のピザをさらに一口分に切り分けてもらってこの場にいる全員に行き渡るようにした。味見だから一口ずつだ。


「じゃあ皆で食べようか。光の神、ティータビア様に感謝を」


 俺の言葉に従って全員で祈りを捧げ、ピザを口に運ぶ。やっば、美味すぎる!


「これは……美味いな」

「お兄様、凄く美味しいです!」

「あにうえ、ぼくこれ好き!!」


 誰もが驚きに目を見開き、ひたすら味わうように咀嚼している。かなり好評みたいだ。まあこの国でピザはこの反応になるだろう。

 ピザが食べられるようになるなんて……本当に凄い、感動だ。


「じゃあクロード、冷めないうちに父上と母上にも食べてもらいたいから、急いで昼食の準備をしてくれる? ちょっと時間は早いけど、二人は食堂に呼んでおくから」

「かしこまりました。早急に準備いたします」


 そうしてクロードに残りの準備は頼み、俺はマルガレーテとローベルトと共に厨房を後にした。そして二人がいるであろうそれぞれの執務室に向かって歩みを進めた。

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