第122話 学校の構想

 設計図を書く前に、まずは大まかな建物のイメージを三人ですり合わせることにする。


「何階建てでどのぐらいの広さにしますか? ちなみに私の知識で学校とは、かなり広いものです。特に上級学校は研究施設という面も持ちますから、部屋数は多くて悪いことはないと思います」


 ハインツの時に通ってた学校は、五階建てで一つのフロアに部屋が大小五つから十ぐらいだったかな……。そしてその建物が、全部で十棟ぐらいある広い学校だった。

 さすがにそんな大規模な学校は最初から無理だとしても、一つの建物の大きさは前世と同じぐらいにしたい。


 この王宮を建築できた技術があるのだし、なによりも魔法陣魔法があるから建築が不可能ってことはないだろう。


「あんまり想像できないんだけど、具体的にはどのぐらいの大きさなの? うちの屋敷ぐらい……?」


 マティアスは侯爵家だからうちよりも少し小さいぐらいの屋敷だよな……それは俺とイメージが違いすぎる。


「もっと全然大きいよ。王宮ぐらいかな」

「え、そんなに!?」

「うん。でもあくまでも俺の知識での話だから、もう少し小さな建物でも良いと思うよ。後から増築することもできるし」

「フィリップの知識ではどの程度の大きさなのだ?」


 ファビアン様のその言葉に前世で通っていた学校を元に話をすると、二人はその大きさにかなり驚いたようだ。


「それはさすがに難しいな……」

「そんなに部屋があって何に使うの?」


 確かにそう言われると、日常的には使われていない部屋も多くあったのは事実だよな……使われてない教室を友達と使ってたのとか、思い出すだけで凄く懐かしい。


「授業によって教室を変えるし、例えば学校に五年間通うとしたら学年ごとに教室が変わるし、そんな感じで使うみたい。あとは先生達の研究部屋とか事務の人達の部屋かな」


 後は広い講堂もあったな。それから魔法陣魔法の訓練場も併設されていた。土地の確保が難しいかもしれないけど、訓練場は作りたいな……


「そういえば、騎士学校はどのような作りなのですか?」


 この国にも学校があることを思い出してそう聞いてみると、ファビアン様が説明してくれた。


「騎士学校は王宮の敷地内にあるんだ。騎士団の訓練場などと同じ場所にある。座学はそこまで多くないから教室は最低限で、外での訓練は騎士団と合同で行ったりもするな」


 そうだったのか……それはあんまり参考にならないかも。騎士学校は騎士団の下部組織的な扱いなんだな。


「上級学校は騎士学校と違って、国の学問が集まる場所という側面も担ってもらいたいので、また違いますね」

「では騎士学校は参考にならないな」

「それだと僕には想像するのが難しいよ。とりあえずフィリップの知識を元に設計図を書いてみてくれる? それを修正していくので良いかな?」

「もちろん。じゃあ書いてみます」


 できるかどうかは別にして、五階建てで大きな建物にしようかな。いや、宮殿より大きいっていうのは避けるべきか……三階建てぐらいで横に広い建物にしたほうが良いのかもしれない。

 あっ、でもそれだと広い土地が必要になるか。土地もそこまで確保できないだろうな……やっぱりここは五階建てかな。


 そうしてこの国の実情を考えながら、大まかな設計図を描いていく。部屋は基本的な教室を多めに確保して、その他に少人数の授業で使えるような小さな部屋や、大人数にも対応できる大きな部屋も追加しよう。

 さらに先生達の個人部屋に使えるような部屋を確保して、休憩スペースみたいな場所もあった方が良いかな。


 あとは図書室と食堂も必要だろう。食堂を作るなら厨房も作らないといけないから、そのスペースも確保しないとだな。あと厨房は一階が良いだろう。


「こんな感じかな」


 十分ほどで大まかな設計図を書き上げて二人に見せると、二人とも真剣な表情で一枚の紙を覗き込んだ。


「凄いな。これは作るのが大変じゃないか?」

「宮殿より豪華になりそう」

「これは理想として、無理そうなところは省いていきたいです」

「そうだな……とりあえず気になるのはこの部分なのだが」


 そう言ってファビアン様が指差したのは、図書室として使おうかなと確保していた空間だった。


「そこは図書室にしたいと思っています。さまざまな資料を保管する場所です」

「……学校にも必要なのか? 王宮にも資料を保管する場所はあるが」

「学生が自由に出入りして、資料を読めるようにしたいのです。例えばですが、王宮にある重要書物の複製などを揃えたいなと思っています」


 この国は本がかなり貴重だから、本の希少性を下げるというのもやりたいことの一つだ。そのための一番の近道は、本の数を増やすことだと思っている。


「それは面白いね。確かに学びになる本が多いよ」

「内容的に流出させられないものも多いが、確かに半分近くは複製して公開しても問題ないな。分かった、では図書室は作る方向でいこう」

「かしこまりました」

「フィリップ。こっちの広い空間は何?」

「ああ、それは宮殿にあるホールみたいな感じだよ。例えば全校生徒を集めたい時とか、入学式や卒業式とかで使えるかなって」


 ただホールは宮殿にあるものを使えば良いという考えもある。だから削れるとすればここかな。ただ毎回宮殿のホールを借りるのはそこに行くことも大変だから、やっぱりあった方が圧倒的に便利だろう。


「ホールか……確かにあった方が良いね」

「ここは食堂か?」

「そうです。そしてこちらが厨房ですね。他の部屋は授業で使う教室と、先生達の研究室となる予定の部屋です」


 そこまで話をして、俺達三人は全員が口を閉じた。そして沈黙が場を支配して……数十秒後にファビアン様がポツリと呟く。


「削れる場所があまりないな」

「僕も同じことを思っていました」

「この大きさはかなり費用がかかるだろうが……学校の設立は国にとって大きなことだ。力を入れても良いのかもしれない。上級学校が魅力的な場所ならば、入学したいからと勉学に励む者も現れるだろうしな」


 確かにそれもあるな。俺もこの学校に入りたいからって勉強を頑張った記憶がある。そう考えると、外観にも力を入れた方が良いかも。


「ではこちらを草案として、より良いものにしていきましょう」

「そうだな」


 それから俺達は学校の建設予定地候補を絞ったり、建築を頼む工房をどうやって決めるか、建材はどのように集めるか、さらに資金はどれほどつぎ込めるかなど様々なことを話し合った。


 どうやって生徒を募るのかについては、まずは現在王宮で授業を受けている人達から希望者を募り、さらに臨時の下級学校を王宮で開き、その中から優秀な人を上級学校に推薦することになった。

 あとはもちろん、貴族の子息子女からも希望者を募る。貴族はこの国でほぼ唯一、基礎教育を受けてる人達だからな。


 まだまだ詳細を詰めなければいけないところは沢山あるけど、一度動き出してしまえばここからは早いだろう。また忙しくなると思うけど頑張ろう。

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