第121話 学校について

 農業の改革に着手してから一ヶ月が経過した。農家ごとに栽培する作物を分けてもらう計画にも皆が賛同してくれて、今は収穫を終えた畑から順次新たな作物を植えてもらっているところだ。


 ニワールの飼育場も三ヶ所に作って、試験的に数匹のニワールを渡している。今のところは問題も起きてないようで、上手くいっているみたいだ。


「では今日の議題だが、学校についてで良いか?」

「はい。ついに学校設立に着手するのですね」


 俺とファビアン様とマティアスは、新しく始める政策を話し合うために執務室のソファーに腰掛けている。他の事業は俺達の手を離れたものも多く手が掛からなくなったので、また新たに始めようということになったのだ。


「魔法陣魔法をもっと大々的に広めたいからな。現在はフィリップ一人に負担が集中しているし、それを改善させたい」

「フィリップが大変そうだからね」

「ありがとうございます。授業の時間が減るのであれば、とてもありがたいです。ただ学校を設立したとして、先生を引き受けてくれる方はいるのでしょうか」


 魔法陣魔法をかなりのレベルで身に付けている人はいるけど、魔道具工房で働いていたり騎士として働いていたり、今の仕事がある人ばかりなのだ。


「最初は騎士に交代で任せようと思っているのだ。ただいずれは専任の先生を配置したいと思っている」

「騎士の数は足りるのでしょうか?」

「ああ、幸いにも騎士が魔法陣魔法を覚えたことで個々の実力が上がったため、見回りなどの人員を削減できているからな。したがって学校に人員を回すぐらいは可能だ」


 確かにそうなるのか……街の外の見回りなんて、前とは比べ物にならないほど楽になっただろう。冒険者の実力も上がって、街の周辺にいる魔物は数を減らしているだろうし。

 段々と全てが上手く回り始めた気がするな……最初にこの国に、フィリップに転生した時はどうなることかと思ったけど、今では未来が楽しみだとまで思えるようになった。


「それは良いことですね。では騎士の方に頼む予定で、学校設立の予定を立てましょう」

「まずはどのような学校にするかですね。フィリップが得た知識には学校とはいくつか種類があるようでしたが」

「ああ、私は上級学校と下級学校を作るのが良いと思っているのだが、どうだろうか。下級学校は誰でも基礎教育を受けられる場所、上級学校は専門的な内容を学べる場所にしたいと思っている」


 やっぱりそれが理想かな……下級学校は平民も例外なく、一定の年齢に達したところで通えるようにしたい。さらにしばらくの間は、今まで学ぶことができなかった大人が学べるコースも作るべきだろう。

 上級学校は魔法陣魔法を突き詰めたり、魔道具作成を教えたり、治癒について教えたり、他にも政治についてなど一部の仕事で必要なことを教える場所にしたい。


 下級学校で魔法陣魔法に才能のある子を見つけて上級学校に推薦できるようにすれば、才能のある子を埋もれさせることも無くなるはずだ。それだけでこの国にとってかなりの利益になる。


「私は賛成です。まずは上級学校から設立すべきだと思うのですがいかがでしょうか?」


 もちろんどちらも早くに設立したいのは当然だけど、それは難しいので優先順位をつけるべきだ。上級学校の方が一つだけで良いし通う人も限定的なので、手を付けやすいと思う。

 下級学校は誰でも通えるようにするのなら、王都だけでもかなりの数が必要になる。さらに不平等をできる限りなくすためにも、貴族の領地にも設立したい。


「僕は賛成です。上級学校なら王宮の側に一つ建てれば良いので、学校を作るという政策を初めて行うのには良いのではないでしょうか?」

「ああ、私も同意見だ。ではまず上級学校から設立しよう。場所はどうする?」


 場所は意外と悩ましいんだよな……貴族街に作ると平民が通いづらくなってしまう。かと言って平民街に空いてる土地もないし、やはり治安などの面からは貴族街の方が良い。


「王宮の側というのは確定で良いでしょうか? それとも別の候補がありますか?」


 マティアスのその言葉に俺は口を開こうか悩んだ。前世で学校がよくあった場所は、街から少し外れた丘の上などが多かったのだ。要するに学校は街の外に位置していた。

 ただそれを参考にするっていうのは……この国では難しいだろう。とにかく建設費用が莫大になるし、さらに通うのも大変だ。


 そうなるとやっぱり貴族街が一番かな……それが一番メリットが多くてデメリットが少ない気がする。平民が貴族街へは通いづらいっていうデメリットも、上級学校に通うような才能のある人なら、その先で貴族と仕事をする可能性が高いのだから、慣れておくのも大切だろう。


「私は良いと思う。国が設立するのだから管理をしなければならない。その時に王宮の近くにあれば便利だろう?」

「確かに管理の利便性もありますね。そう考えると……私も王宮の側で賛成です」


 よく考えたら移動手段がほとんどないのだから、利便性を一番大切にすべきだ。街の外に作ったって、馬車がなければ学校に辿り着くのも一苦労だろう。


「では王宮の側に建設しましょう。既存の建物を使用しますか? そうするのであれば、平民街に学校を置くことも可能です」

「……いや、私は新たに建設すべきだと思っている。学校という存在を広めるために、分かりやすい象徴のような建物があった方が良いのではないか?」

「確かにそれは一理ありますね」

「では貴族街に設立することにしましょう。空いている土地の中から、できる限り王宮と平民街に近い場所を選定します」


 マティアスがそうまとめたところで、上級学校の場所は決まった。あとはその作りだ。どうせ一から作るのなら、先を見越して大きめな建物にしておきたい。将来的には国中から優秀な人間が集まる学校になるのだから。


「フィリップ、建物の設計図って書ける?」

「うん。建築工房の人に見てもらって、どんな建物なのか理解してもらえる程度には書けるよ」

「じゃあお願いしても良い? この紙で良いかな」

「大丈夫だと思う」


 建物の設計図を書くのなんて久しぶりだな……一応学んだけど、実践では使ったことがないから上手く書くのは無理だろう。でも見て分かってもらえる程度には頑張らないと。

 俺は少し緊張しながらペンを手にした。

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