第17話 仕事の流れ

「ではフィリップはこちらへ。ファビアンとダスティン、それからマティアスも来てくれ」


 陛下に促され、俺とファビアン様、宰相様、それからマティアス様が一つのテーブルに集まった。


「アルベルトはどうする。一緒に話をするか?」

「いえ、フィリップも大丈夫みたいですので、私は一度退出させていただきます。久しぶりに図書館へ向かおうかと」

「そうか。ではフィリップの仕事が終わったら図書館に知らせをやろう。昼食も時間になったら持っていかせる」

「ありがとうございます。ではフィリップ、しっかり頑張りなさい」

「かしこまりました」


 父上は俺に声をかけると、いつもより足取り軽く執務室を出て行った。もしかしたら図書館が好きなのかもしれないな。


「では早速だがこれからの仕事の流れを説明する。フィリップの知識は光の神ティータビア様から得たものだ。よってこの国の最重要事項として、ここにいる五人で主に仕事をすることになる。しかし私とダスティンは王と宰相ゆえに他の仕事で手が回らないことも多いだろう。そこで代表者はファビアンに任せたい。ファビアンできるか?」

「もちろんでございます。全力でこの仕事に向き合う所存です」


 ファビアン様のその返答に陛下は満足したような表情を浮かべ、一度大きく頷いた。


「よろしく頼むぞ。そしてマティアスもフィリップの手助けを主にやって欲しい。もうここで働き始めて一年になるし、一通りのことは頭に入っただろう?」

「はい、問題はありません」

「頼んだぞ。では主にファビアン、フィリップ、マティアスの三人でこの仕事を回してくれ。私達にも定期的に報告を頼む。それから三人で判断できないと思ったら、必ず私かダスティンに指示を仰ぐこと」

「かしこまりました」


 国のトップで最重要事項として仕事が始まるんだな……俺は今更ながらに少し緊張してきた。これって相当な責任が伴うものだろう。

 前世の俺は王宮魔術師だったとはいえ、ただの平で役職も待っていなかった。そんな俺が一気に宰相補佐に就任して、国のトップと仕事をするなんて……


「フィリップ、光の神ティータビア様に突然選ばれ、責任の重さに足がすくんでしまうのも仕方がないことだと思う。しかしフィリップ一人で背負うことではない。私達が全力で手助けをするので頑張ってほしい」


 俺が怖気付いたのが分かったのか、陛下がそう声をかけてくれた。俺はその言葉で、やっと周りにはたくさんの仲間がいることを思い出す。そうだよね……皆と頑張るんだ。俺一人でやらなければいけないわけじゃない。


「精一杯頑張ります」


 俺はテーブルに座る四人の顔を順番に見回しながら、そう宣言した。


「その意気だ。それでは私とダスティンは別の仕事があるので早速三人に任せても良いか?」

「お任せください」


 ファビアン様がそう応えて俺とマティアス様も頷いたのを見届けて、お二人は別の仕事に向かって行った。本当に忙しそうだ。


「改めてフィリップとマティアス、これからよろしく頼むぞ」

「はい。よろしくお願いいたします」

「全力で頑張ります!」

「まず何からすれば良いのかを考えたのだが、とりあえず今日から何日掛かっても良いから、フィリップの得た知識を全てまとめる作業をしたいのだがどう思う?」

「僕は賛成です。どのような知識があるのか知らなければ、最適な政策は作り出せませんから」


 知識を全部まとめるのか……相当大変だろうけど、確かにやるべきことだな。俺も月日が経つに従って、忘れてしまうこともあるだろうし。


「フィリップはどうだ?」

「膨大な量なのですが、全てまとめておいた方が後のためには良いかと思います。私もいつまで忘れずにいられるのか不安でもありますし」

「では決まりだな。まずは知識を種類ごとに分けることにしよう。どんな知識があるんだ?」


 書記はマティアス様が務めてくれるみたいなので、俺は必死にハインツの記憶を掘り起こして口を開いた。


「まずは先程の魔法陣魔法を含めた、魔力が関わることです。それから……魔物について、衛生環境について、食について、教育について、服飾について、娯楽について。今思いつく限りですとこの程度かと」

「……これは大仕事になりそうだな。ではまず魔力についてからまとめていこう」

「かしこまりました」



 それから午前中いっぱいで、魔力について最低限の知識をまとめ終えた。しかし神聖語についての知識と魔法陣の描き方に関する知識は、さすがに膨大すぎて今すぐにまとめられるものではないので、俺が少しずつやることになった。


「少し疲れたな、一度休憩をしよう。ちょうど昼時だ」

「確かに少し疲れましたね」

「疲れましたが興味深い内容ばかりでした。もっと聞きたいです!」


 マティアス様が瞳を輝かせてそう言ったのに対して、ファビアン様が苦笑しつつ立ち上がる。


「昼食を食べてからにしよう。フィリップも一緒に来ると良い」

「はい。昼食はどこで食べるのですか?」

「中央宮殿で働く者達の食堂があるからそこに行く」

「そのような場所があるのですね」


 そんな話をしながら中央宮殿の中を進むこと五分ほど、以前はパーティー会場だったのかなって広さのホールに辿り着いた。中にはたくさんの机と椅子が設置されていて、厨房部分とカウンターで繋がるようになっている。


「カウンターに行けば一人分がもらえるんだ。食べ切ったらあの机におけば厨房の者が片付けてくれる」

「便利な仕組みですね」

「三人分頼むよ」

「かしこまりましたー!」


 ファビアン様が厨房に声をかけると、中にいたガタイが良くて顔が怖いおじさんが大声で承ってくれた。

 この国って王族や貴族など身分はあるけれど、そこまでその身分が厳格ではないみたいだ。前の世界で王族が一文官達と一緒に食事をするなんてことは、さすがになかった。王族の方々が気取っていたとかではなく、それが常識だったのだ。


 やっぱり国が厳しいと連帯意識も生まれるのかな。国難に全員で立ち向かって乗り切ろうみたいな。そしてそこに身分はあまり関係がないのかもしれない。

 ……まあそういう人ばかりではないのだろうけど。


「お待たせしましたー!」

「ありがとう」


 皆で大皿に載ったジャモと少しの肉、そしてスープを受け取り適当に空いている席に座る。


「光の神、ティータビア様に感謝を」


 そしてティータビア様に祈りを捧げてから食事開始だ。俺はせっかくの機会ということで、今まで気になっていたことを聞いてみることにした。


「ファビアン様、この国の歴史はどういうものなのですか? まだ詳しく習っていなくて」


 フィリップの記憶から分かるのはここ数十年の歴史ばかりで、それ以前の知識が全くないのだ。多分まだ習う前だったんだと思う。


「具体的にどういう歴史が知りたいんだ」

「そうですね……建国時から近年までの歴史を」

「分かった。ではこの地に最初に遣わされた十人の英雄の話から始めよう」

 

 そうしてファビアン様は、俺が知りたかったこの国の歴史を語ってくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る