E p i s o d e .9【王国侵入の大物ゾンビ】

「我々勇者部隊は王国を守るため、ゾンビを駆逐する! 皆は準備は良いな!」


「「「了解であります!」」」


「勇者様のあとに続き、出撃しろ!」


 王国騎士団隊長アルバンは剣を掲げ、勇者のあとに続き、迫り来る脅威――ゾンビたちを迎え撃つ。


「僕は名声さえあればいいのに……こういうのって転生者たちの仕事じゃない?」


「勇者様、失礼ですが、あなた様も転生者であらせられる事は忘れなく……」


「あれ? そうだっけ?」


「まあ無理もありませんよね。転生してから30年は経っているんですから」


「よーし今日も名声獲得に僕に協力しろ! 神聖剣ナージスタバルの糧にしてやるよ!」


 勇者は神聖剣を抜き、馬の上に立ち上がる。神聖剣を縦に振るうと、地が割れる轟音と全部隊の視界を防ぐほどの砂埃が舞いあがる。


「俺の舞台に告ぐ! 魔法師団隊長グリニクス・エーラを救いに行くぞ!」


「「「おお!!」」」


 凄まじい声量とやる気は王国側の土器を高めていき、騎士たちは少ない魔力を身体強化に全振りする。


◇◆◇


 王国の門に大きな怪しい人影が映る。

 目元は腐敗し、身体のあちこちは黒く焦げており、少しの腐敗臭と焦げた匂いが混ざり合う。


「やはり、あの勇者は俺に気付かなかった。作戦通りだ。さて……外はあいつらに任せて内部からの蹂躙は、この俺様に任せやがれ子分共」


 10メートルを超える巨体がドシンドシンと地を震わせながら、一歩一歩確実に目標へと足を運んでいく。


「あそこにデザートがいるな」


「……? なんであいつが……確かに浄化したはず……」


「こいつはあの時の野郎じゃねぇか! 数日ぶりだな! 異端者ヘレティックが!」


 デカゾンビはフードを被る少女――ミルテナを見つけ、数回の拳を放つ。

 建物は半壊し、中にいた一般市民は下へ叩きつけられる。


「……危ない。この街は人間の者。よそ者は入っちゃいけない」


「そんなこと知った事ねぇよ!」


 瓦礫を握り潰し、粉々にしたレンガや石をミルテナに投げつける。

 ミルテナは反魔法を展開し、粉砕した瓦礫を防ぐが、見えていなかった振り下ろされた拳に叩き落とされる。


「全く。頭を使わん異端者ヘレティックなど相手にならん。この勝負、俺の勝ちだな」


「……まだ負けてない。もう一度あの魔法使ってやる」


「あの程度の魔法など、とうに克服したわ。エーラと言う奴の最上級魔法|聖魔聖十砲《レヴァント・ベール》を放たれても俺は生き残った。故に俺は聖耐性を獲得したんだよ!」


「……王国最強魔法師の魔法でも倒せない程の体力。そんなこと分からない。やって見なきゃ」


「そんな怪我でどう魔法を使おうとするんだ? ゾンビになった俺は炎か聖しか喰らわん。いや今は炎だけか。全く……最強の道を進むとはな!」


 デカゾンビはけたけたと笑う。

 ミルテナは額から血を流し、隠し持っているナイフを取り出し、聖なるポーションをかける。


「そんな物で傷付くわけないだろ? 少しは考えてみろよ」


「……効く効かないの問題じゃない。やるかやらないか。答えはやる!」


 デカゾンビの目を標的にし、一本のナイフを投げる。疾走感溢れるナイフをデカゾンビは弾くと、元の場所にいたミルテナはすでにいない。


「ちっ……逃げやがったか」


「……暗殺者には、後ろを取られちゃだめだよ」


 太いうなじに、ナイフを成長させた武器を刺し込む。

 だが、唸り声をあげないデカゾンビは、不敵に笑う。


「体内で爆発させようとポーションをかけつつ、時限爆発を付与したんだろうが、筋肉の密集度が高く、爆発するための空気が十分になかったんだろうな!」


「……そんなに単純な考えで暗殺者はやってられない。第2、第3の罠は張り巡らせるもの。《分身ドッペルゲンガー》」


 ミルテナは一度、うなじから身を投げ出すと、もう一体のミルテナがデカゾンビの足元に出現する。


「そんな見え見えな罠をよ!」


 横から大きく振るわれる拳は、偽ミルテナを捕らえ握り潰すが、液体のように溶ける。


「なんだこれは……握れない」


「……残念。ドッペル……」


 勢いよく飛び回っていたせいでミルテナ本体が壁で衝突する。


「どうして戦闘中、足を踏み外すんだ?」


「……白髪のノア」


 俺は偶然、壁を貫通してきたミルテナを受け止める。


「なんだ? ってお前は!?」


「また会ったな……ところで誰だ?」


「お前に名乗る必要も無いと言ったはずだ!」


 横からのサイドブローか。ミルテナを抱えたまま、逃げ回るのは面倒臭いな。だが、受け止めると俺は死ぬ。避けるという選択肢しかないか。


「くそ! 避けるな!」


「理不尽だ。それにお前の相手は俺じゃない……そこの海凪だ」


「はっ! まさか!」


 奴は後ろを振り向くが、そこには誰もいない。

 引っかかったな、この低脳は。こんな嘘も見抜けないとか、ポンコツ過ぎる。


「てめぇ! 俺を騙しやがったな!」


「騙してないぞ、もう一度見てみろよ」


「見るものか!」


と言っている」


 しまった。つい癖で言葉に魔力を込めてしまった。ミルテナにバレなきゃいいが……。

 奴は強制的に後ろを向かされると、そこには俺が言った通り、海凪が立っていた。


「さあ、ミルテナから二人増えて、と行こうじゃないか」


――――――――――――――――――――

 読んで頂き、有難うございます!


 次回、ミルテナ・ノア・海凪vsデカゾンビの決闘が始まる!  ワクワクするぜ!


 応援してる!  どうなる!?


 などと思ってくださいましたら、お願いします!

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