E p i s o d e .7【王国兵士と腐乱死体】

 一頭の馬に跨る、金属鎧に腰に剣を携えている一人の青年――王国騎士の下っ端。

 青年は広い草原を颯爽と馬で駆け回り、心地よい風に当たる。


「休暇を貰えてたくさんのお金を貰えるとか、王国騎士マジぱねぇ! あっそうだ。弁当を持ってきたんだった」


 青年は馬に持たせている小さな箱の蓋を開け、中から紐で編んでいる、さらに小さい箱を取り出す。

 その蓋を開けると巾着袋に入った緑色の弁当箱を開け、フォークを使って食べ始める。


「美味いな、母さんの料理は。何か帰りに帰っていくとしようかな」


 青年は次々と口へ運んで行き、一粒残さず綺麗にたえらげる。

 鉄の剣を鞘から抜き、天に向かって突き刺す。


「私は王国騎士騎士隊長様だ! 道を開けろ!!」


 快晴の下の元、青年は少年心をくすぐるような台詞を口にして、太陽の光を光沢のある剣で反射させる。

 すると森の方から腐ったような匂いが風に乗り、青年の鼻を刺激する。


「何だこの匂い? なんか腐っているような……」


「うぅぅぅぅぅ……」


「誰だ!?」


 鉄の剣を両手で握り、中段あたりで構える。

 足元に置いてあるヘルメットを被り、目線の空いている所から眼だけを動かし、辺りを見渡す。


「いないな……気のせいなのか? 最近不思議なことが起きるな、俺の周り……」


「タスケテ……」


「どうしました?」


 青年は振り返ると腐った匂いを放ち、目ん玉がギリ筋肉で繋がっている腐乱死体――ゾンビと目が合う。

 ゾンビは口を開けると有り得ない匂いを放ち、青年の腰を抜かさせる。


「あっ……あっ……来るな!!」


「タベモノヲ……メグンデハ……クレマセンカ?」


「しゃ、喋るな!! ゾンビ風情が!」


 青年は何とか力を振り絞り、立ち上がろうとするが、一度抜かした腰はそう簡単には言うことは聞かない。

 ヘルメット下で大量の冷や汗を流しつつ、潤った指を折り曲げ、剣を持ち上げ、横や縦に無造作に振り回す。


「タベモノヲ……クレマセンカ?」


「近づくなと言っているだろ! ゾ、ゾンビが!」


「待てゾンビ! 我が名は王国魔法師団隊長グリニクス・エーラである! 青年よ! こちらへ来なさい!」


「は、はい!」


 赤く長い髪を後ろで結び、白を基調としたローブを纏い、片手には長めの青い宝玉をつけた杖を持つ女、隊長グリニクス・エーラ。

 青年は助かったと息を漏らし、抜かされた腰のまま、ハイハイでエーラの元へ駆け寄る。


「タベモノヲ……クレマセンカ?」


「エーラ様! こいつあれしか言えないんですよ!」


「それはどうでもいい! 青年は後ろへ下がっておれ! 《宝玉ノ壁クリスタル・ウォール》!」


 青色に光る宝玉が地面から湧き出て、ゾンビをクリスタルのドーム状で囲む。

 エーラの持つ杖の宝玉は伝説レジェンド級の宝玉であり、どんな状況下でも魔法を放てる特別な杖。さらに自身の魔力消費も少なくし、太陽の光で強くなる、つまり国宝級だ。


「これで終わりだ! 《業火ノ柱エントラ》!」


 キラキラと光るドーム状の中に閉じ込められたゾンビを燃え上がる火柱で焼き尽くす、《業火の柱エントラ》。

 普通は当てずらいこの魔法は壁などで囲むことで、逃げ場をなくしたゾンビであれば、必中で当たることができる。これも異世界学院【テンセイ】で培ったものだ。


「あ、ありがとうございます! エーラ様!」


「すまない。少し遅れてしまった」


「大丈夫です! エーラ様が来なければ、私は死んでいました! エーラ様は命の恩人です!」


 青年は被っていたヘルメットを外し、泣きじゃくった顔でエーラのローブにしがみつく。鼻水も涙を豪快なほど垂れ流す青年を見て、エーラは少し引いている。


「ところで青年は何故ここにいるんだ?」


「私は今日休暇を貰ったので、久々に外でご飯とでもと思い……」


「ここは危険地帯に設定されているはずだ。すぐにここから離れることを勧めるよ」


「どこも危険地帯とは思えないんですけど……」


「ここにはたまに……何だこの匂いは? まさか!?」


 エーラが森の方を向くとそこには、大量のゾンビが群がる集団と得体の知れない化け物がいた。


「な、なんなんだあの数は……王国兵士並の軍隊ではないか! 青年よ! 早く馬に乗って国に知らせろ!」


「ですがエーラ様は!」


「私はここで足止めをする。早く!」


「わ、分かりました! 死なないでください!」


 青年は馬に跨り、全速力で走らせる。

 エーラは杖を構え、


「こいゾンビ共! ここから先は行かせないぞ!」


――――――――――――――――――――

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