E p i s o d e .6【一騎打ちという名の敗北】

 時は過ぎ、俺たちは休日を超え、学院を迎えた。

 いつも通り俺は教室の端に座ると、横に海凪が座る。


「ノアくん。課題やった?」


「そうだった。やってない」


「先生に怒られちゃうよ?」


「また契約でもして勝負に勝てばいい」


「またやらかさないでね、ノアくん」


 やるわけないだろ。課題なんかやらない事が正義だ。

 怒られるとしても俺は絶対にやらない。絶対に。


「そう言えばノアくん。数日前、《聖光槍ホーリースピア》撃ったよね? あれって聖属性の中級魔法だよ。ノアくんって教会に関わる人間なの?」


「……」


「どうしたの?」


「……それ以上のことは何も言うな。俺の名がすたる」


「あはは……何か触れちゃいけない所を聞いちゃったのかな? ごめんね、ノアくん」


「いや気にするな」


 俺は一度席を立とうとした途端、ぞろぞろと教室へクラスメイトたちが中へ入ってくる。

 そして担任も。


「はいはい。皆さん課題を提出してください。そうだノアさん。課題は! やってきましたか!?」


「やっていないし、怒られる理由にもならん。今日は気分が悪い。早退させてもらう」


「え、でも……今日は……あの説明会があるの、ですが……」


「海凪に説明しておいてくれ。じゃまたな」


 俺は段差を降りていき、教室を出ていく。

 

◇◆◇


 王国の街――中央に位置する噴水の前。時間帯は昼頃になってしまった。

 馬車の往来が激しくなっていき、俺は噴水近くのベンチへ座る。


「何とも教会のことを知っているのか。まあいいか。俺は関係ないし」


 腹が減り、何かを買いに行こうと立ち上がると、チリンチリンと王国の鐘が鳴り響く。

 この音はの合図だな。


「勇者様がお帰りになったぞ! 道を開けて並べろ!」


「あのおっさん。確か……」


「おや、そこの君。退いてくれるかな?」


「お前は?」


「中央街の担当、ナナウラだ。今から勇者様がお帰りになる。そこを退いてくれ」


「ナナナウラ、か。すまないがそれは出来ん」


「ナナナウラではない! 一個多い! ナナウラだ、ナナウラ!」


 そんな事はどうでもいいんだが。てか、一個多くても変わらんだろ別に。


「おい聞いているのか! だから退けって言っているだろ!」


「ナナナが俺を退かせばいいんじゃないか?」


退退!!」


「なら俺を引きずってでも運べばいいだろ」


「あああーもう! 絶対にキレるなよ!」


「別にキレはせん。やれるならやってみろ」


 ナナウラは俺の手を力いっぱい引っ張るが、びくともしない。

 こいつ、もしかして力弱いんじゃないか?


「一つ聞いていいか? お前って……本当に担当なのか? 弱すぎるだろ」


「ぎぐっ……」


「おい今ぎくって言ったろ」


「言ってない!」


「いや言った」


「言ってないったら言ってない!」


「勇者様のお通りだ! 道を退け!」


 ようやく勇者のご登場か。少し唾でもつけておくか。


「勇者様!! こっち見てください!」


「あはは。女の子がたくさんだ。それに男の人もおじさん達も……いい人ばかりだな。今日も」


「なあ勇者」


 俺は隊列の一番前の馬にまたぐ、金髪勇者の前に立つ。

 いつ見てもイケメンだなこいつは。何ともぶん殴りたい顔だが、こいつに勝てないんだよな。


「どうしたのかな?」


「一つやりたい事がある。をしてくれ」


「さすがに勇者の僕は、一般市民である君には手を出さないよ」


 やっぱりこういう男か。報酬もいらない、女もいらない。こいつは何を考えているんだ。


「はぁ……やはりか?」


「そうだね。名声は正義だよ」


「なあ勇者。負けてやるから名声でも高める気はないか?」


「ほ、ほんとかい!?」


「ああ。俺にメリットはないが、お前にはメリットがある。いい条件だろ?」


「そうだね。早速やろうか!」


 この勇者ちょろ過ぎないか? バカにもほどがあるだろ。


「ほらやろうよ! め・い・せ・い! 名ぃ声!」


「ほら剣を抜け」


「いいねいいね! えい!」


 地が破裂する爆音、大量に天を覆う砂埃。

 そして圧倒的な素の力に上乗せされる、勇者専用の聖剣。

 床の石タイルは崩壊させ、ぎり噴水に傷をつけた勇者の手加減具合。なんとも恐ろしい力だ。今後関わりたくないNo.1だな。


「いてて……」


「大丈夫かな? でも凄いよ。一般市民である君が僕の力に耐え抜くとは。ぜひ将来は王国兵士に就職すること勧めるよ」


「こんな勇者に守られるのは何か嫌だな」


「そんな冗談は、よしてくれよ」


 いや割と本音混じりなんだが……。

 力は凄いが、欲はあんまりなく、それに加えてこの性格だもんな。名声さえあればいい、ご都合主義だなこいつ勇者は。


――――――――――――――――――――

 読んで頂き、有難うございます!


 名声があれば、何でもいい勇者様は本当に名声を獲得することは出来たのか!?


 応援してる!  どうなる!?


 などと思ってくださいましたら、お願いします!

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