E p i s o d e .5【マスターゾンビ】

「君は……ああ。そこにいた女の子の連れの方だね。今から楽しいことをするから、男の君ならさぞかし楽しいショーになるだろうね。レッツパーティー!」


「ショーという事は何かするんだな」


「そうだね。例えば……こういうのとか!」


 体を押さえつけられている少女の服をゾンビが破り、黒色のヒラヒラをつけた下着姿を晒す。

 何かを察したのか、海凪は顔をうずめたまま、俺の目を手で覆う。


「乙女の察知能力によると、ノアくんは見ちゃ行けません。見るならば私のだけにしてください」


「見るにも何も興味ないんだが……」


「ダメなものはダメです」


「あらあら。彼女さんが嫉妬していますよ! ああ。僕も彼女に嫉妬されたいなぁ」


 なんと言うかこの空気とてつもなく嫌だな。

 海凪を彼女扱いされ、あの変態は自分の体を抱いている。それにあのゾンビ変態はずっと下着を凝視しているし。


「なあ、海凪。これやる意味あるか?」


 隠された時は隠されていたが、今になっては指の隙間が広がっている。


「あっそうだ! 見てよこれ! 《強制牢獄シュクラク》」


 奴の描いた魔法陣を見た途端、俺の身体が拘束される。手首、足首、それに首まで。

 魔法で造られたこの牢獄内は魔力を巡らせることもにさせるみたいだな。なんと厄介なものだ。


「海凪。一旦離れていてくれ」


「なんでですが?」


「邪魔だからだ」


「はい。分かりました」


「あらあら。まだそんな拘束も解けないのですか? これは審判者の皆さんが見たらどうなっていることでしょうか……異端者に……ごほっ……これは」


 突如、奴のフードの中から血を吹き出す。


「血……なんでこの僕が……」


「そんなのは知らん。俺は何もしていないぞ」


「ま、まさか!」


 奴は後ろを振り向くと、あの少女の姿は無く、見えたのは地面を転がる頭と離された肉体――ゾンビだけだ。

 そして奴の背中には、小さな体で奴が手放した剣を持ち、体を貫いている。


「いつの間に……」


「……あんなゾンビ、せいぜい百体は用意しないとミルには勝てない」


「お、おのれぇぇぇ!! こうなったらお前ら全員道連れだぁぁ!! 《腐敗化ノ蹂躙マスターゾンビ》!」


 奴の体はみるみると成長していき、体長はおおよそ10メートルを超える。そしてこの腐った匂い――ゾンビ化が進んでいるようだ。これは早めに対処しなければな。とは言っても俺は戦えないんだがな。


「ほら逃げるぞ、海凪」


 俺は弱まった《強制牢獄シュクラク》を力で破り、海凪を背負い、覚えている限りの道を進んでいく。


「待てやぁぁ! クソどもぉぉ!!」


「あいつこの国を無くす気か?」


「……そこの白髪。ミルも手伝う」


「ならあれを倒してくれ」


 俺とミルと名乗る少女は並行して走る。


「……あれぐらいも倒せない?」


「無理だな。生理的にも力的にも」


「……分かった」


 ミルは立ち止まり、ゾンビ化した奴の方を向く。

 懐からナイフを取りだし、小さな魔法陣をいくつも描く。


「何してるんだ?」


「毒をナイフに付与しているんだよ、あれは」


「起きていたのか」


「当たり前。だって……背負ってくれてるんだもん。寝れるわけないじゃん……」


 また頬を染めている。このまま置いていこうか、迷うな。


「……えい。えい。えい……」


 ミルは毒を付与したナイフを数本ずつ投げまくり、奴の巨体へ突き刺す。

 奴は歩みを止めて狼のように吠える。


「てめぇら! これでも喰らえ!」


 口の中で生成していそうな毒液を球体上にしてミルに向かって吐き出す。

 毒液はグツグツとマグマなような音を立てながら、地面へ被弾し、辺りへ飛び散る。


「……熱い。《状態異常回復ヒーリング》」


「やれることは無いが、少し手伝ってやるか。おい腐敗」


「お前には興味が無い。僕の敵はこいつだけだ! 邪魔をするな!」


 見向きもされない。こいつは俺を敵にするのは弱すぎて無理だと感じているようだ。なら、敵にされるくらい邪魔をするだけだ。

 奴は回復中のミルを狙い、大きく巨大化した腕を振り落とす。

 風の抵抗が大きくなるが、その分地面を割るぐらいまでは力を振り絞ることが出来る。


「全く、人の話くらい聞けよ……《聖光槍ホーリースピア》」


 俺は奴にバレぬよう小さな魔法陣を描き、神々しく光る槍を飛ばす。

 聖光槍はミルの体を粉砕される直前に奴の片目を貫く。そして目を押さえ、


「異端者がぁぁ!! この俺にこのような侮辱を! 許さぬ許さぬ!!」


「打ったのは俺だ。そいつには罪はない。狙うなら俺だけを狙え」


「雑魚の分際で大きく吠えるなよ!」


 再び振りかざす巨体の腕は先程より、怒りに身を任せ、強くなっているようだ。でもそれは……。

 ドーンと砂埃を起こし、奴は腕を上げる。


「やはりゴミはゴミ箱へ、か……なかなかのいいネタだ。さてと次はお前だ、ミルテナ!」


「なあ。それで俺を殺したつもりか?」


「あ? なに!?」


「お前。俺を殺す気無かったろ。当たってねぇんだよ」


 ミルテナはポーションのようなものを地面に落とし、魔法陣を描く。

 そして


「……《死体浄化ホリエルス》」


「やめろ! やめろ!」


 喉が動いたな。毒液か? 念の為、その前に潰しておくか。


「海凪」


「任せて。《重力結界グラビティーハウス》!」


 奴を覆うように重力が付与された結界が展開し、吐き出そうとしていた毒液が喉内で破裂する。

 しかし、ゾンビに毒液は効かない。でもこれだけは言える。


「足止めにはなる。流石だねノアくん」


「頭を使うのは得意だからな。あとさっさと降りてくれないか?」


「あ、ごめん……」


 奴は破裂した毒液を吐き出そうとするが、あまりにも巨大化したために、重力が振りかぶる面積が多い。

 抵抗しようが、自分の重さも含まれている。あの一発目の攻撃で気付いていた。せいぜい全力で行けるのは、体型的に一発だと。


「……準備できた。《死体浄化ホリエルス》」


 ミルテナがそう唱えると、奴の体からは肉が焼けるような音が鳴る。

 展開された奴ぐらいの《死体浄化ホリエルス》の魔法陣は、浄化すると共に徐々に小さくなっていく。

 道具を媒介とした魔法は長くは持たないからな。特に攻撃魔法は。


「覚えていろよ……いずれもう一度……お前たちを殺しに来てやる……絶対に……」


 奴の体は金貨くらいの大きさまで縮み、ミルテナは小さな足で踏みつける。

 これでスラム街半壊ぐらいで済んだみたいだ。もうちょっと破壊しといても問題は無さそうだったんだがな。


「……注意を引いてくれてありがとう。名前はミルテナ、ミルテナ・ガーネット。よろしく」


「ノア・ガヴリエルだ」


「私は北宮きたみや海凪みなぎ、よろしくね」


 俺はミルテナの手を取り、強く固い握手をする。

 少女の手はこんなに小さいんだな。言っておくが、俺はじゃないからな。


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 読んで頂き、有難うございます!


 協力プレイ最高!  ミルテナちゃん、ロリなんだ!

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