E p i s o d e .3【初の授業】

 入学してから一日後の今日、初めての授業がある日だ。

 俺は入学同様、一番後ろで窓側の席に腰を落とす。


「少し早すぎた」


 周りはまだ誰も来ていない。

 今ならあれが出来るかもな。

 と、俺は腕を伸ばした途端に北宮きたみや海凪みなぎが教室を訪れた。


「ノアくん。おはよう」


「おはよう、海凪」


 来てしまったか。なら仕方がない。

 海凪は俺の隣に腰を下ろし、耳にかかった金髪を耳裏にかける。


「今日の私、どうかな?」


「どうって……」


「ほら、昨日の私と少し違うじゃない……?」


 海凪は頬を少し染めている。

 確かに昨日の海凪がいれば見比べることが出来るが、元の姿の記憶が曖昧あいまいだからな。

 まあ、変わったところで言えば……


「匂いか?」


「それもあるけど……ほら。こことか……」


 プルっとスライムのように揺れた桃色の唇を人差し指で触る。

 小さな動作で海凪からは花の香りが流れる。まるで花畑にいるかのように。


?」


「そ、それは違う意味に聞こえるな……さすがに顔は整形でもしないと変えられないよ……私はね。メイク変えた? って言って欲しかったんだ」


「メイク変えたか?」


「……うん」


 海凪はさらに頬を染めて下を向く。

 このシーンだけを切り抜き何かに例えるなら、のようだ。

 恋するという事は俺自身にはよく分からんが、どこかの辞書に乗っていたはずだ。


「よし一番乗りぃい! ってノアと北宮はいたのか……」


 野乃ののすぐるが窓を開けて中へ入ると、次々と中へ入ってくるクラスメイト。

 そしてその数分後、担任アリシエスも中へ入ってくる。


「では授業を始めたいと思います。魔法教科書のP2お開きくださーい」


「魔法教科書とかいらないと思うが……」


「ノアくん。何か言った?」


「いや。何も」


 神に拾ってもらった者達に魔法教科書が必要だとは思えないが、基礎からやるのだろう。いやそれ以外無さそうだ。


「まずは四大属性――火、水、風、地についてお話をしていきたいと思います。この四大属性はこの世界が誕生してから数年後に神々がお創りになったと言われています・・・・・・・」


 それから四大属性について担任アリシエスは語る。

 要するに現在の属性は、この四大属性から派生または進化したものだと考えるが妥当だ。それに加え、魔法は体内の魔力を使用して魔法を放つことが基本中の基本のようだ。


「先生、外のはどうやれば取り込めるんですか?」


 優が手を挙げ、質問をする。


「昔からその研究は進められていますが、未だ魔素を魔力に変化出来ず、身体中で塊化してしまい、無理みたいです」


「ノアくん。そもそも魔素って何?」


「元々体内に存在するものが。自然界で勝手に生成されたものがだ。だが、魔素は体へ取り込む際に魔力へと変換しなければならない。それが昔から研究していても出来ないらしいぞ」


「ふーん……」


 海凪は素っ気なく返事を返す。明らかに先程までの海凪とは別人のようだ。

 ずっと隣にいる俺は、すぐに交換らしいものはされていない。それにずっと魔法文字で空中にメモをしている。

 まあ、気のせいだろう。


「ノアくん。今日も一緒に帰ろうよ」


「構わないが、明日は用事があるとか言っていなかったか?」


「それはお姉ちゃんが言ってくれるみたい」


「姉がいるのか?」


「二人ね。でも一番上のお姉ちゃんは審判者の手によって殺されちゃったの……」


「それは残念だったな」


 昨日会ったばかりだが、こういう話は進んで言いたくはないだろうが、よく話してくれたな。その勇気だけは認めよう。

 帰りに日本のアイスでも買ってやろう。


「ノアさん。メモなりしていないと成績が落ちてしまいますよ」


「それはすまぬが、そういう話は基本のようだからな。とっくの昔にマスターしている」


「ではこの問題を答えられたら、授業態度はAにしてあげましょう。さあ取引です。《契約コントラ》」


 わざわざここまで厳重に条件を出すとはな。少し乗ってみるか。


「ああ。面白そうだ《契約コントラ》」


――『ノア 勝利条件・問題を解く 報酬・態度A』


――『アリシエス 勝利条件・問題を解かれない 報酬・態度Eにさせる権利』


 契約内容も言葉にした通りみたいだ。さてどんな問題が来るだろうな。

 アリシエスは魔法文字で問題を書き終えると、俺の方へ魔法文字を飛ばす。


「『問題 最大火力が出る魔法の名を答えなさい』か。一つ質問だ。どの属性でもいいのか?」


「そうですね。分かるのであれば」


「うんじゃあ……《明暗ノ選択コントラスト》」


 俺は魔法文字で描き、アリシエスへ返す。

 アリシエスは初めて動物を見た時のような表情で俺が書いた魔法文字を眺める。


「この魔法文字って……先生の知らない文字のようですね……なんて書いているんですか?」


と書いてある」


「ふ、不純! ノアさん酷いですよ! どうしてそんなこと書くんですか!」


「昨日の帰り道。先生はどこにいたか、覚えてますか?」


「昨日の帰り道……あっ!」


――やばいどうしよう。いつ見られたのかしら! いや昨日の帰り道には先生しかいなかったはず。一体どこから……?


「昨日……に言っていたろ先生。いくら出会いがないからって先生として行くのは間違ってますよ」


「あ……」


 アリシエスは持っていた問題集を落とす。そして虚空を眺めるように顔を白く染める。

 やっぱり図星か。夕方東の方に歩いていたら偶然見かけたが、明らかに仮面をつけてドレスを着ていたからな。あんな時間にあの格好は無理があるだろう。


「ならこの勝負俺の勝ちでいいな」


「あ、はい……ではこれで今日の全授業を終了致しますね……あはは……」


「ノアくん……先生も女の子だよ。出会いが無いのは仕方がないと言えど、言葉を選んで欲しかったな……」


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 読んで頂き、有難うございます!


 まさかの婚活パーティー! アリシエス先生に婚活能力を……。そしてご相手をお待ちしております。

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