第28話 そこまでで
そこで驚いたのは梨央も同じだった。
真北が女性であることは薄々感じていたけれど、まさか既婚で、しかも離婚経験者だとは。もっとも、あえて今まで何も聞かないでここまできたのだから当然なのだ。
だから、妹の史帆に言えないことも真北にはついつい言ってしまったのだ。真北はわかってくれる気がして。愚痴を吐いてしまっていた。
そして、真北が言った言葉にも。
今、なんと言った?実は夫は自分の事が好きなはずだと?散々あんな暴言を吐いてきたのに?家のことも子供のこともしなかった夫なのに?自分をあんなふうに扱っていたというのに?
「嘘。わたしのことが好きなら、外で済ませてこいなんて絶対に言えないはず。有り得ない・・・!」
真北の端正な横顔を見つめて反論する。
けれども、彼、いや、彼女は、また明るくははっと笑ってみせた。
対峙している夫は、片手で顔を隠しながら黙っていた。顔がよく見えないから、その表情はわからない。だが、真北にも、梨央にも、抗議する様子がなかった。
「有り得ない、と思うのは梨央さんの考え方です。そんな酷い言葉を言っても、いや、言ったからこそ相手を縛れると思い込む人が、ご主人。夫婦であっても他人だし、考え方は人それぞれ。それを理解する努力を怠れば、・・・ね?」
信じられないものを見たような。それこそ幽霊でも見たかのような顔で、梨央がもう一度夫を見た。
「お、俺以外に、誰も相手にしないってわからせれば、逃げ場はなくなるから・・・。俺に縋るしか無いって思いこむようになれば・・・。それなのに、梨央は外に出たがって、外に男を作って・・・!やっぱ、俺なんかと結婚したのは間違いだったって、後悔してるんだって。そう思って・・・」
「はあああ!?なんなのよ、それ!?」
「だって、丈晴生まれたらお前俺に冷たくなって、俺のこと放ったらかしになったじゃないか。レスになったのだって、元々はお前が拒否したからだ。子供のことばっかりかまってて、夫の俺のことなんか」
「はいはい!そこまで!!」
パンパンとよく響く拍手をして、真北が幸人の言葉を遮る。
思わず夫婦揃ってそちらを注目してしまった。さすがに元劇団員だ、人目を引くすべを心得ている。
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