第27話 本当は好き
「お、俺は、思い上がってた・・・。結婚してしまえば、こっちのものだと、そう思ってた・・・。だって、苦労して手間を掛けて、やっと承諾してくれた唯一の相手だから、きっと、大丈夫だろうって、・・・俺の言うこと聞いてくれると、そう思ってた。だから、だから」
「だから?何を言ってもいいと?どう扱ってもいいと?そう思ってたんですか?」
真北の声はびっくりするほど冷えている。
「い、いや・・・そうじゃ、ないけど、少しくらいは」
「自分のほうが上だと思い込ませれば、好きに出来るとでも?」
「だ、だって!そうでもしなきゃ、こうやって浮気されて出ていっちまうんじゃないかって!案の定、あんたみたいな男に引っかかって」
「誰が男だっていいましたか?」
そこで、はじめて、真北があはは、と笑った。
梨央も口元を押さえてクスクスと笑う。
「あ?」
幸人は、鳩が豆鉄砲でも食らったかのようにぽかりと口を開いた。
「馬鹿ね。やっぱり気付かなかったんだ。真北さんは女性よ。」
「元、某劇団の男役なんです。男装はお手の物なんですよ。勿論、演技もね。あはは、やっぱり気付かれなかった。俺の演技力まだまだイケますね。」
梨央と真北は声を合わせてまた笑っている。
何が起こったのかよくわからないような顔の幸人が、まだ、呆然としていた。
「な、なに?」
「見ますか、身分証明書。ホラ。」
ジャケットの胸ポケットから、真北が身分証明書を取り出して幸人の眼の前に突き出した。載っている写真は確かに目の前の男と同じ顔だが、性別は女性になっている。写真もかなりボーイッシュなので、誤解を受けそうだけれど。
「更に言うと、離婚経験者でもあります。だから、梨央さんのこと放っておけなかった。・・・ご主人、本当は梨央さんのこととても好きでしょう?こんなにしょっちゅう会社休んで、仕事が手につかないくらいだったんでしょ?」
涙で濡れた顔が真っ赤になる。慌てて顔を袖で拭った。
「梨央さんからお話を聞いて、多分そうじゃないかと思いました。ご主人のやり方はかなり間違っているし歪んでいるけれども、本当は梨央さんのこと大好きなんですよね。誰にも触れさせたくないくらいに。もしかしたら、ご自身の子供にまで嫉妬してしまうくらいに。だからあの手この手で家に閉じ込めたかった。でも本当は岡惚れしてるから、酔っ払ったりするとすぐに気が緩んでなんでも許したくなっちゃう。だけどそんな自分が嫌なんでしょう。そんな自分じゃ梨央さんに見放されると思い込んでる。違いますか?」
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