第21話 呼び出し

 やがて梨央が働きはじめて二ヶ月を過ぎる頃、久しぶりに義両親に呼ばれた。孫の丈晴の顔が見たくなったのだろうと思い、日曜日に夫と子供と三人で行くと伝える。「いいえ、梨央さんお一人で来て。丈晴が幼稚園に言ってる間でいいから。」

 義母の声は、電話越しでもどこか怒っているかのようだった。

「わたし一人で、ですか。」

「ちょっと相談があるの。」

「相談?」

 一体なんの相談だろう。嫌な予感がするが、断るわけにも行かない。数少ない仕事の休みの日に、義実家などに行きたくないが、仕方がない。

 お店が休みになる平日の火曜日、小さな和菓子の菓子折りを手に義実家を訪ねると、何故か夫がすでにその場にいたので軽く狼狽した。

「仕事は?」

「休んだ。」

 義実家の客間で義両親の間に挟まるようにして胡座をかいている。

 嫌な予感は的中したようだ。

 夫の幸人が高圧的なのは母親似なんだろうなと、ずっと思っていたが、今日も義母は上から目線だ。上座に親子三人で並び、嫁を一人下座に置いて威圧していた。

 菓子折りを出した梨央に対し、義母はお茶もだしてくれず、代わりにちゃぶ台の上に広げたのは、数枚の写真だった。

 梨央と真北が一緒に歩いているのがほとんどだが、寄り添っていたり、ハグしているものもある。あの時、本当に撮影していたんだな、と納得だ。

「あなた、まだ丈晴も小さいというのに、こんな浮ついたことしていたんですって!?この男、誰なの?あなたの何?」

 鼻の穴を大きく広げて興奮している義母。夫にそっくりで笑える。

「同僚です。」

「あなた、同僚とこんなことしてるの!?」

「いけませんか?」

「当たり前です!!こんなの、浮気じゃないの!!よくもウチの息子を馬鹿にして・・・!!」

 義母の横で、したり顔をしてうんうん頷いている夫。

「これが、浮気、ですか?こんなの、証拠にもなりませんが?」

「は!?」

「浮気ということは、相手と肉体関係に有る、という証拠ですよね。この写真のどこにそんな要素が?一緒に歩いているだけじゃないですか。ちょっとハグしたくらいの場面、何かのはずみでいくらでも有りえます。これじゃ裁判で勝てるわけないですよ。」

「裁判ですって!?」

 更に義母は激昂する。その隣で、夫も驚愕の表情だ。

 さらにその隣の義父だけは、知らん顔でタバコをふかしていた。

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