第20話 入れ知恵したのは

 言われた言葉にショックを受ける。

「お、おまえ、今、なんって言った!?」

 布団に潜り込んだ妻を執拗に起こす。納得できない台詞だった。

「うるさいなぁ・・・だから、しなくていいって。その方があなたも楽でしょ?お金くらいちゃんと入れてよね。わたしはあなたの言うとおりにしたんだから。」

 いかにも面倒臭そうに布団の中でごもごも言った後、梨央は再び背を向ける。

「余りうるさくしないで。丈晴が起きちゃうでしょ。」

 さすがにそれ以上何も言わずに夫が子供部屋を去った時には、梨央も布団の中でため息をついた。

 その直後に、リビングのドアを叩く大きな音が聞こえたけれど、寝た振りを決め込む。荒れてるなとは思うけど、悪いのは向こうだ。自分じゃない。


 

 翌日もう一度銀行に行ってみると、元の口座に振込が有った。夫が振り込んだのだろう、明細がないからわからないが、先月の夫の給与と大差ない金額が入金されている。胸をなでおろした。出来れば、夫の実家にお金の無心などしたくなかったから。

 幸人だってそんなの嫌だろう。彼のプライドが許すまい。自分の稼ぎがなくて、自分の親にお金を借りに行くなんて、絶対有ってはならないことだ。

 銀行を出ると、待っていてくれた真北がニコニコしてこちらを見る。

「終わった?」

「うん、大丈夫だった。」

「やったね。」

 家事ボイコットの案を授けてくれたのは、真北だ。

 育児も家事もほとんどノータッチの旦那だと告げると、

『生活費がないとごはん作れないって言ってみれば?』

 とニコニコして言うのだ。

『そしたら家事をサボってるって言われそうで。』

『だってお金なくちゃなにも出来ないよ。サボりじゃない、不可抗力さ。』

 なるほど、と思った。それもそうだ。何をするにも、先立つものがなくては。

 まさかこんな若い真北が夫への対抗策を考えてくれるとは思わなかったが、こういうことは史帆よりも何故か役に立ってくれている。

 もしかして、既婚歴があるのだろうか。

 真北薫への疑問は尽きないけれど、詮索することは出来ない。史帆が彼を連れてきてくれたわけも、本人の事情も一切梨央は知らない。

 綺麗な横顔を見上げながら、ふと、そう思う。

 個人的なことを尋ねたらきっと、真北はいなくなってしまうのではないか、と。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る