第14話 夫婦は鏡?

 ざまあみろ、だ。

 あんな若くて綺麗な男と一緒にいる自分に、ヤキモチを妬いている夫が可笑しくてたまらなかった。そうだ、夫には逆立ちしたって勝てまい。細身の身体、水を弾く色白の肌。真北薫はモデルだけに、まるで少女漫画から出てきたキャラの如く爽やかだった。ずんぐりした体型で険しく濃い顔立ちの幸人とは、タイプが違いすぎる。

 スキップでも出そうなくらいに軽い足取りで駐車場へ辿り着く。

 ドアミラーで、自分の姿を見た途端に気分が落ちた。

 だって、先程の夫の姿は、結局は自分と同じだ。梨央が、真北のような若いイケメンにつりあうわけもないのだ。今はただ、妹の史帆の依頼で付き合ってくれているだけの話で。

 夫が嫉妬して文句をつけてきた醜い姿は、裏を返せば、梨央と同じ。

 車に乗り込んで、大きくため息をついた。



 夫婦喧嘩をしていても、そして、どれほど深刻でも、やはり主婦はご飯を作らなくてはいけないし、洗濯物は溜まるし、埃も積もる。息子のためなら惜しまない手間も、夫にかけてやる気に離れなかった。

 必要最低限の会話だけを交わし出来るだけ接触を避ける生活は、窮屈だった。夫の幸人は何かを言いたそうにこちらを見ては舌打ちをしているが、梨央は無視を決め込んでいた。主婦として、いや、家政婦兼ベビーシッターとしてやることは全てこなしている。文句は言わせない。

 もう、いっそ離婚でもいいか、などと思い始めている。

 息子の丈晴は夫に懐いていない。かまってあげないのだから当然だ。だから、今なら息子に辛い思いをさせないままに離婚出来るのではないだろうか。

「姉ちゃん、そこまで思い詰めてるんだ。」

「・・・問題はお金なんだよね。わたし一人ならどうとでもなるけど、丈晴に不自由な思いさせたくない。」

「実家に帰るの?」

「まだ、わかんないよ・・・。」

 電話越しの妹の声は心配そうだった。

 嫁に行った娘が出戻るなんて、妹も両親もいい迷惑だろう。世間体も悪いし。

 だが、梨央は都心の生活が懐かしかった。便利だし、贅沢を言わなければどうにか就職もできるだろう。現在の住所では子供一人養っていくほどの仕事を探せるとは思えなかった。幼稚園では保育料が割高だ。パートのお給料ではやっていけない。

「いっそのこと、こっちへ戻ってきてあたしと同居する?」





 

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