第12話 お相手
「この人、ウチのモデルさん。紹介すんね。」
妹の後ろにいた長身の影が、軽く会釈する。
細身の、爽やかなイケメンだ。年齢は20代前半、いや、10代でも通りそうなほど若くて清潔感に溢れている。
「
史帆はやたらニヤニヤと嬉しそうに彼を紹介した。
「どう、どうも。
「よろしく。」
真北は、短く答えただけだったが、表情はにこやかだ。
妹の史帆も身長が高いが、さすがにモデルだけあってさらに上背がある。スポーツでもやっていたのだろうか。
梨央はなんだか緊張してしまった。若いイケメンと間近で顔を合わすなど何年ぶりだろうか。
「姉ちゃん。この人恋人にしちゃいなよ!!お相手募集中なんだよ、薫さんは。」
「なっ・・・何言ってんの!史帆。失礼じゃないの!」
何も言わない真北はニコニコ笑っている。その隣には同じくニコニコしている店長が立っていた。
史帆は、姉に身を寄せて耳打ちした。
「外で浮気していいって、言われたんでしょ!旦那さん、見返してやんなよ!!外見は申し分ないくらいイケてるの連れてきたんだから!!」
「ちょっと!!史帆!!」
柄にもなく赤面してしまった。
それは、恥ずかしさや照れたからというのも有るが、怒りもある。そんな事をおおっぴらに喋る妹に、憤ったからだ。
「あ、すみません。昨日の電話、隣にいたので全部聞いてしまったんです。ごめんなさいね、梨央さん。」
悪びれもせず、店長がそう言うので。
梨央はもう観念するしか無かった。
「ごめんなさい、おかしなことになってしまって。」
商品整理をしながら謝罪する梨央に、店長の倉田は鷹揚だ。
「全然気にしてないから大丈夫ですよ。というか、むしろちょっと」
「・・・おもしろがってる?」
マネキンに服を着せている真北が、低く笑いながら付け足した。
倉田がくすくすと笑う。
就職した時は聖母のように優しい女性だと思ったけれど、案外人が悪いのだろうか。梨央にとっては恩人も同然だから、文句を言う筋合いは無いけれど。
「あの、真北さんは史帆と一緒に本社へ戻らなくていいんですか?」
妹の史帆は仕事が有ると言って彼を紹介した後すぐに帰ってしまった。
「あら、彼が戻っちゃったら梨央さんの彼氏遠距離になっちゃいますね。」
「暫くこちらに滞在します。梨央さんの彼氏なので。」
どこまで本気で言ってるのかわからなくて、困惑してしまう。
そりゃあ、こんなにもカッコイイ若者が彼氏だったら、夫の鼻をあかしてやれるのは間違いないけれど。そんな下らない小芝居のために、おつきあいするわけにはいかないだろう。
「滞在って・・・。」
「倉田さんのおうち、広いんですってね。史帆さんから聞きました。」
「そりゃいいわ、うちにおいでおいで〜。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます