第11話 味方現る

 梨央は妹に話を聞いてもらったので少しだけ気が楽になり、丈晴を連れてスーパーで買い出しした後帰宅した。

「ただいま。」

 夫がいてもいなくても、気が重いまま玄関を通る。丈晴の靴を並べてやり、手洗いうがいさせるため、洗面所へ連れて行った。

「おかえり。」

 のっそりとリビングから出てきた夫が、パジャマのままで顔を見せる。

 ぎょっとして思わず身が引けた。

「ただいま、お父さん。」

「おー、おかえり、丈晴。どこ連れてってもらってきたんだ?」

「公園!!でっかい滑り台や登り棒あって、凄く楽しかった!!」

 珍しく、夫の幸人が子供に話しかけている。

「よかったな。」

 短く言うと、またのそのそと寝室へ向かって歩いていった。

 ろくに梨央の顔も見ず。梨央も、夫と視線を合わせようとは思わなかった。

 キッチンへ入ると、買い物した荷物がない。玄関に置き忘れたかとスリッパの音をパタパタさせながら歩きだしたら、冷蔵庫の真ん前に、荷物が置いてあることに気がついた。丈晴には重くて運べないので、夫が運んでくれたのだろうか。梨央と丈晴が洗面所にいる間に。

 珍しいことが続く。昨夜のことが、少しは夫にも響いているのか。



 翌日職場へ行くと、店長の倉田が満面の笑みで近寄ってきた。

「おはようございます。」

「おはようございます、梨央さん。お客様よ。」

「まだ開店前なのに!?」

 目を剥いて狼狽する梨央に、倉田が笑いだした。

「違う違う。そうじゃなくて、本店から貴方にお客様。」

 店舗のバックヤードに目を移すと、背の高い影が二つ見えた。支店の店員は全部で5人で、平日の勤務は二、三人の事が多い。他のパート店員ではないことだけはわかる。

「姉ちゃん!!」

「史帆!?」

 話をしたのは昨日なのに、わざわざ会いに来てくれたのか。

 思わず両手を上げて駆け寄ってしまう。再会を喜び堅く両手で握手をする。

 妹の、派手なネイルが施された両手を捧げ持つようにして、梨央は頭を下げた。

「来てくれてありがとう・・・。本当に、ありがとう。」

 ここに引越してきてからずっと孤独だった。

 でも、今日はそれを感じない。事情を知らない店長の倉田も、昨日全部話してしまった史帆も、今だけは自分の味方である。そんな気がして。


 

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