第10話 復讐しちゃうぞ
気が動転していたままの梨央は、気付いたら洗いざらい電話で妹に話してしまっていた。居場所のないこの街で孤立していた梨央は、まるで堰を切ったように全てをぶちまけてしまったのだ。
メールでは簡単に夫婦喧嘩しただけだ、と伝えたけれど、あっさり嘘だと妹には見抜かれてしまった。そんなに親しい姉妹だったわけではないが、やはり家族なのだろう。
「姉ちゃん・・・、それは、旦那さんが、義理のお兄さんが悪いと思う。」
「もう、いいんだよ。ごめんね、嫌な話聞かせて。」
史帆の気遣う声でようやく我に返ったのか、喋りすぎたことを後悔する。
幼い子供が遊べるアスレチックで息子の丈晴が遊んでいる。それを眺めながら、梨央は昼休みだと言うには余りにも長い時間、妹と通話していた。
「姉ちゃん、あのね。」
「うん?」
「あたし、姉ちゃんに嫌われてるって思ってた。」
「え?どうして?」
史帆が急にいい出した言葉に、驚いた。
「だって、あたし姉ちゃんと違って大学も出てないし結婚もしてない。父さんや母さんが望むような理想的な娘じゃなかった。だから、理想的に育った姉ちゃんのこと羨んでいたし、きっと姉ちゃんもあたしのこと嫌いだろうしきっと馬鹿にしてるんだろうなって思ってたんだ。でもさ、姉ちゃんがうちの会社の系列で働きはじめたって聞いてね。」
「わたし史帆のこと馬鹿になんかしてないよ。むしろ、自立してて凄いなって思ってるよ。ちゃんと自分の夢を追いかけて実現しようとしてる。その夢がお父さんお母さんの希望と違うのはキツイかもだけど。わたしのほうが、史帆には馬鹿にされてるかなって思ってたよ。親の言いなりに進学して、手堅そうなところで就職して無難な結婚決めてさ・・・挙げ句にこのざまだもん。」
梨央には妹のような具体的な夢はなかった。服飾デザイナーを目指して夢中でその夢に向かって突っ走っている史帆は立派だ。妹の進路に、父母はいい顔をしなかったけれどそんなことはどうでもいいのだ。派手で気丈な妹は自分と違い過ぎて、共感は難しかったけれど、嫌っていたなどということは絶対ない。
「夢を追うのは大変だろうけど、心の中では史帆のこと応援してたよ。」
「倉田さんが、姉ちゃん一生懸命仕事してくれてるよって教えてくれてさ。絶対連絡しなくちゃって思ってさ。・・・だから、改めて姉ちゃんにそんな暴言吐いた奴許せない。復讐してやんなきゃ。」
「そんな、復讐なんて。・・・ただ、これから一生あの人と一緒に生きていくのかと思ったら嫌になっちゃって。・・・でも、案外結婚なんてそんなものかもね。皆一見幸せそうに見えても、蓋を開ければこんな風に問題を抱えてるのかも。」
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