第9話 飛び出した先

 翌日の日曜日、梨央は早くに丈晴を起こして外出した。まだ眠いのか車の中で再び寝てしまった彼は、何処へ行くのかも知らず夢の中だ。

 別にどこか行くアテが有るわけじゃない。ただ、家にいたくなかった。夫が起きてくる前に出かけたかった。本当は昨夜のうちに家を飛び出してしまいたかったけれど、丈晴がいるからそれは出来ない。

 休憩と朝食を取るのを兼ねてコンビニに車を駐める。すると、スマホに着信が有った。まさか夫からだろうか。

史帆しほ?どうしたんだろ、こんな朝から。」

 画面に出たのは、実家にいるはずの妹からだった。日曜日なんて忙しいだろうに。

「おはよー、姉ちゃん。姉ちゃん働いてるんだって!?」

 思わずスマホを耳から離す。朝から元気な妹の声は少々デカすぎる。

「お、おはよ。うん、一月くらい前からね・・・」

「ちょっと水臭いじゃないの。倉田さんから聞いたよ。まさか、うちの支店で姉ちゃんが働いてるなんて知らなかったからさ。」

「あはは・・・そのうち、言おうと思ってて。」

 梨央があの店舗で働こうと思った理由の一つだった。ロゴを見た時、妹の会社だとすぐにわかったからだ。

「・・・なんか、元気ないね、姉ちゃん。」

 姉の電話越しの声が、余りにも覇気がなかったのだろうか。妹はすぐに異変に気付いた。

 泣きはらして徹夜なのだ。梨央が元気な声を出せるわけがない。

「なんか、あった?」

「・・・大丈夫。それより日曜日なんて史帆は忙しいでしょ。わたしのことはいいんだよ。早く仕事に行って。」

「う、出勤時間に間に合わなくなる・・・。ねぇ!!お昼休み、電話するから!!それまでにメールで事情を送ってくれない?そしたら、話が早いからさ、ね!」

「いいよ、そんなの。迷惑かけたくないし・・・。」

「ちょっと!!あたしに黙って勝手に結婚しちゃったし、引越しもしちゃってさ、再就職までも黙ってたんじゃん!!これ以上隠し事、許さないからね!!」

 また、涙が出そうになった。それは、昨夜の絶望の涙とは違う。

 妹の史帆は、妙に自立した子だった。

 だから、そんな言葉を聞けるなんて夢にも思わなかったのだ。姉のことなど、きにかけていないのかとばかり思っていた。だから、梨央の結婚にも無関心な様子に思えたのだ。

「うん・・・うん・・・ごめんね、ありがとう・・・。」

 車の中で泣き崩れる。

 昨夜あんなに泣いたのに、まだ涙は残っていた。

 


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