第7話 心の繋がり

 ショックの余り、梨央は思わず立ち上がり枕を夫に叩きつけた。

「・・・ひどい・・・、よくそんな、こと言えるわね・・・。」

 暗くて見えないだろうが、梨央の頬には後から後から涙がこぼれ落ちてくる。

「いってぇな・・・!何すんだよ!!こんな凶暴でダッセぇおばさん女になんか勃つわけ無いだろ!年増のくせに、いっちょ前に愛され妻になりてぇってか!?ばっかじゃねぇの!!ちょっと外にでて働いたからって思い上がってんじゃねぇよ。」

「年増なのはあなただって同じじゃないの!!自分だけが変わらないとでも思ってるの!?」

「少なくともお前よりはよっぽど若いしイケてるからな、俺。」

 血の気が引くとはこのことだろう。

 さぁっと音がするのではないかと思ったくらいに、梨央の頭から血の気が引いた。

 確かに若い女の子には劣るだろう。美女なわけではないから、年齢と共に衰えは隠せない。

 それは夫だって同じだ。酒の飲み過ぎで声が焼けて来ているし、下腹だって出てきている。白髪だって増えた。目元の小じわだって、もう可愛い笑いジワなどとは言えないほどだ。

 それなのに、妻だけが老化して価値が下がったかのような言い草。

「わたしだって三つも年上の下っ腹のでたオッサンよりも、若いイケメンの方がいいにきまってるじゃないの!!腹筋が割れてるようなイケメンのほうがずっといいわ!!」

 言い返した言葉に、幸人は一瞬だけ絶句する。

 しかし、次の瞬間には、真っ暗な寝室に場違いなほどの笑い声が響いた。

「ギャハハハ!!こんなおばさんなんか若い男に相手にしてもらえるわけないだろ!!調子に乗るのもいい加減にしとけよ!!男は皆若くて綺麗な女がいいに決まってるだろ!」

「・・・言ったわね!!じゃあ、わたしがよその男と浮気してもいいってことね!?公認で浮気していいのね!!」

「対象にもならねぇよ!笑わせてくれる!!ババアのくせに盛りやがって!」

「確かに聞いたからね、その言葉!」

「そういうのも家の外で済ませてくれば??年増のくせにその押さえきれない性欲、せいぜい外で発散してきて。出来るもんならな!!」

 なんというひどい暴言だろう。

 妻に言っていいことと悪い事の区別もつかないのか。

 セックスレスで辛いのは、セックス出来ないことじゃない。

 相手と繋がれないことだ。

 相手との絆が感じられないこと。

 レスであっても円満な夫婦は、きっと心で繋がっているに違いない。

 梨央が欲しかったのは、性交する行為そのものではなく、心の繋がりだったのに。

 



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