第6話 夫の動揺
梨央は、夫が妻の仕事着を見て動揺したことを、見逃さなかった。
働きはじめてまだ一ヶ月だが、職場の服装にも慣れてきて、恥ずかしいとは思わなくなっていた。何より、夫が
もしかしたら、仕事に行くようになって変わった自分に惚れ直してくれるかも知れない。
店長の倉田は、最初はちぐはぐだった梨央の服装を少しずつ矯正し、社割で買った洋服が似合うように指導してくれたのだ。化粧の仕方や髪型などもアドバイスしてくれた。確かに、梨央の外見は変わったのだ。
丈晴を寝かしつけた後、寝室でソシャゲに興じる夫の元へ足音を忍ばせて行ってみることにした。自分のスマホを片手に。
お風呂には入ったけれど、もう一度軽くメイクをして、職場に行く時の髪型に戻す。店長に勧められた下着や社割で購入したルームウェアを身につける。
ベッドのルームランプの下でずっとスマホをいじっている夫が、梨央に気付く。妻の姿を足元から頭の天辺まで凝視してから、鼻を鳴らして、また視線を小さな画面に戻した。
やはり、幸人は梨央の変化に動揺しているのだ。
レスになってから、何度か、派手な下着をつけてみたり、アロマを炊いてみたりしたことはある。少しでも、夫にその気になって欲しかった。きっかけはなんであれ、自分はこのひとの妻なのだと、思いたかったのだ。だから、話し合いもしたし、努力もしたけれど、幸人が梨央を求めることは無かった。
「ね、いい加減にしたら?そうでなくても眼鏡なのに、また視力悪くなるよ。」
出来る限り優しい声音で言う。
「ああ・・・じゃあ、この勝負が終わったら寝る。」
珍しく、梨央の忠告を聞き入れるような言葉を発したではないか。
寝室では、夫婦でシングルベッドをくっつけて寝ている。丈晴は幼稚園に入ってから自分の部屋で寝るようになった。
だから、子供がいることはレスの理由にはならない。
ベッドに入って、夫がゲームを終了させるのをじっと待っていると、やがて明かりが消えた。
梨央は思い切って、甘えるように身体を擦り寄せてみる。
「・・・なんだよ。」
しかし、幸人の声は冷たかった。
「わたし、変わったでしょ?」
「だから?」
「だからって・・・、女らしくなったと思わない?」
「ばっかじゃねぇの。ちょっと普段と違う服着たからって、お前がいい女になったわけじゃないし。さっさと寝ようぜ。目を休めるんだろ。」
悲しくなった。夫の反応は、相変わらず冷淡なものだ。
「大体さ、なんでそんなにヤリたいわけ?お前淫乱なの?欲求不満なの?きっしょ。おばさんの欲求不満なんて、最悪だよな。」
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