第4話 似合う服
アパレル会社に勤めるなんて初めてのことだったけれど、未経験者でもいいと言ってもらえた。余程、人出が不足しているのだろうと思った。梨央が務めていたのは夫の幸人と同じ商事会社だったから、まったくの畑違いだ。
けれど、そんなことはどうでもいい。家の外へ出られる。それが本当に嬉しかった。辛くても大変でも頑張らなくてはと、強い決意で職場へ向かった初日。
久しぶりにしたフルメイクが、おかしいのではないかと何度も鏡を見てしまった。
「こんにちは。よろしくおねがいします。」
「よろしくおねがいします。」
最初に勤務時間や規定などについての契約を行う。印鑑を持ってくるように言われたのは、この書類のためだったのだろう。残業や、業務規程、作業手順についても細かく書かれている書類を、梨央は目を皿のようにして読んだ。
面談してくれたのは、あの時に声を掛けてくれた女性で、
「な、何か?」
笑われた気がして、思わず書類を読んでいた顔を上げる。
「いえね、ちゃーんとしっかり契約書を隅から隅まで読んでくれてるから、偉いなぁと思って。後々トラブルが起こらないように、細かく書いてあるでしょ?ウチの書類。大概の人って、途中で読むの嫌になっちゃて家に持って帰ってから読むってサインしてハンコついちゃうのよ。貴方ってちゃんとしているのね。」
雇われ店長の言葉に、思わずぱかりと口を開いてしまった。
こんな大切な書類なのに、読まずにサインするなんて梨央にはとても出来ない。それに、書類を読むのは慣れている。前職は総務にいたから、嫌と言うほど読んだり作ったりしたのだ。
「職務規定の中に、服装の規定が・・・」
「そうなの。うちの製品を着てもらうの。勿論社割で安く買えるし、なんなら給与天引きも出来ます。それに、いつもってわけじゃなくて、接客時だけは着てもらうことになってるの。裏方業務だったら、何着ててもいいんですよ。」
「わ、わたしなんか、こんな綺麗な服、着こなせるでしょうか。こんな、みっともないおばさんなのに・・・。」
自分の夫にすら、振り向いてもらえない。そんな、女として終わっている自分なのに。こんな若い人が着るような、きらびやかな格好が、自分に出来るだろうか。
倉田は、目を丸くした。そして、困ったように苦笑いする。
「わたしより
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