突然その日はやってきた

次の日、リクは珍しく早く起きると、さっさと学校へ向かった。

相変わらず鞄はなかったが、今日は片手に袋菓子を握っていた。

キャラメル味の、ポップコーン。



裏門に着いた時、リクはすぐに少女を見つけられなかった。

少女はリクに言われた通り、大きな桜の木の後ろで、縮こまって座っていた。


リクは木の後ろを覗き込むと、ポップコーンの袋を、バスッと少女の頭に乗っけた。


「よっ!」


「リク君!」


少女は驚いてリクを見上げた。


「おはよう。今日は、遅刻じゃないんだね」

「まーな。・・・これ、やるよ。ずっとここにいても暇だろ」



リクはポップコーンの袋を少女に渡した。

少女の笑顔は、どこか特別だった。だから素直に、喜ばせたいと思える。


少女は、リクの見たかった笑顔を見せた。


「ありがとう!すごい!これは、なぁに?」

「ポップコーンだろーが。多分うまいから、食ってみ」

「へぇ・・・人間のおやつって、おいしそう」


少女はうきうきと、袋を開けた。


「ん~、いいにおいがする!お花とは違うけど、甘いにおい!」

「お前がそれ食って、桜の木にポップコーンでも咲いたら、すごくね?」

「大精霊様に怒られちゃうよ!・・・ね、リク君も一緒に食べよ」



サッカー部の朝練がある柳星よりも早く、家を出てコンビニで毎日違うお菓子を買う。

学校に早く行って、毎朝一緒にお菓子を食べる。

リクはしばらくの期間を、そんな風に過ごした。



少女といる間、心はなんだか円満だった。



・・・しかしそうして一週間も過ごしていくと、リクは嫌でも少女の違和感に気がついた。

地面に落ちる桜も増えていき、桜の木も徐々にだが、その鮮やかさをなくしていった。


それに呼応して、少女の髪からは艶も消え、声もなんだか元気が薄れていった。



・・・・"別れ"。


リクはそんな言葉を、毎日頭から払いのけて、過ごした。

今なら、自分の本心を尊重してやってもいい。

この少女は、確かに特別な存在。

小さな手を握ることも、今やためらいはなかった。

自分でも不思議なくらい、少女といる時間は、晴れやかだった。





・・・しかし、それは何の前触れもなく、突然やってきた。

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