だから人は手を繋ぐ

リクは思わず、瞬時に少女の顔を見返してしまった。


「友達は、手とか繋がねーんだよ」

「そうなの・・・!?」



少女はショックを受けたような顔をした。

感情に素直で、喜怒哀楽が分かりやすい。

そんな所も、面白い。


「お友達は、手は繋げないの・・・?」


「・・・普通は繋がねーよ。そーゆーのは、恋人のすることじゃんか・・・ま、別にいーけどな」



あまりに残念そうな顔をするから、思わず笑って欲しい、なんて思ってしまった。


リクは、少女の小さな手を包むように、握ってやった。


「うわぁ」


こっちが恥ずかしくなるくらい、少女の顔がぱぁっと輝いた。


「すごい。人間の手って、暖かいんだね!とっても安心する・・・。


だから人は、手を繋ぐのね」



リクはぽりっと頭をかいた。そんな素直に感動されたら、反応に困る。


リクにとったら、少女の小さな手も、十分暖かく感じた。



「そいや、さぁ。」



リクは調子を狂わせまいと、話題を変えることにした。



「友達、ほしんだろ?オレの友人でよけりゃ、紹介してやろっか。

友達一人でいいっつっても、これじゃなんつーか・・・

友達っぽくねーし」



しかし、少女は少し考えた末、首をふった。


「ありがとね、でも大丈夫。リク君がいてくれたら、あたし十分。


・・・・寂しく、なっちゃうでしょ?お別れの時。

だからね、そんなに沢山お友達は、いらないの」



別れの・・・時。


「よくわかんねーけど」


少女は瞬きを繰り返すと、口元は微笑む努力をしたまま、目は寂しげに俯いた。


「桜は、散っちゃうからね。私が生きられるのは、それまでの間だけ」


(・・・あぁ、そーゆーことか)



リクは髪をかきあげた。

むしゃくしゃとした想いが、心を駆け回っていく。


・・・悲しい?


リクは自分に詰め寄った。

(まさか、好きになってきた、なんて言わないよな)



「・・・・ ・・・」



雨が上がった。

ふいに、リクのズボンのポケットで、携帯が振動した。リクはいっきに我に返った。



「やっべ!」



"か い も の"の四文字が、頭に跳ね上がってきて、リクは急いで立ち上がった。

メールの送り主は、母親だろう。



「わり、オレ買い出し頼まれてたんだわ」


リクはヘルメットを引っつかんだ。


「また明日な!・・・あ、あとここにいっと、皆色々びっくりすっからよ。

木の後ろとか・・・目立たないとこにいろよ!」



少女は名残惜しそうな表情だったが、リクにしっかり手を振ってきた。


「いってらっしゃい!今日は、ありがとう!とっても幸せだった!」



少女の声を背で受けながら、リクはバイクに向かって走った。



そして、もう素直に認めてみようかとも、思えた。

自分の心に、まるで桜が咲いたかのような・・・

春が来た温かみが、芽生えたことを。

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