第2話 出会い
6時間目のチャイムが合図で、学校は終わり。
生徒達はガヤガヤ残っていたり、部活に行ったり居残りさせられたり、さっさと帰ったりする。
リクは、柔道部の勧誘を受ける昌秋を置いて、ハルと共に学校を出た。
「あれっ?やっべ、財布置いてきた!」
「はぁ?」
ハルは鞄をまさぐった。
「うっわまじかよ~・・・ちょ、待っててくんね?取ってくるわ!」
「ばーか」
ハルは鞄をその場に投げ捨てると、バタバタと戻って行った。
正門からは、駐輪場の向こうに裏門が見える。
何故か今年は、正門よりも裏門の方が、沢山桜が咲いているようだ。
「・・・あ?」
ふとみた裏門に、今朝の少女の姿を見つけた。
しかし一人じゃない。
何人かの男子生徒に、囲まれているみたいだ。
リクは少しの間、そのようすを見ていた。
もちろん、知らないふりをして見ているというのが、残念ながら一般的な選択肢だろう。
しかしリクにはリクなりに、正義感というものがある。
それに、群がる男子共は一年坊だ。
(・・・入学早々、何やってんだよ、あのガキ共。)
リクは仕方なしに、ハルの鞄を置いて駐輪場を通り抜けた。
「なーんだ、同じ年じゃんね!誰か待ってんの?」
「あの・・・はい」
「誰だれ1年生の人~?彼女さん?」
「いえ・・・」
4人もの男子に取り囲まれ、少女は朝リクが見たような、明るさと気さくさはないようだった。
あたし桜の精なの!
なーんて言ってるようにも、見えない。
「おい、おめーら」
リクは両手をポケットにしまいこんだまま、一年坊達を見下ろした。
一年坊達は、突然の声に振り返る。
一瞬、ギョッとした。
ぱっと見明らか、関わりたくないような、先輩だったからだ。
「あっ、せ、先輩の彼女さんっすかぁ?な、何か困ってたみたいだったんで・・・なぁ?」
「そうっす。・・・なんか、すいませんね・・・」
「・・じゃ、俺達これで・・・」
男子共は、ヘコヘコしながら早速と立ち去った。
桜満開の裏門。
後には、リクと少女だけが残された。
「うわぁ!来てくれた!」
少女は大袈裟なほど嬉しそうに、両手をパンッと合わせた。
「あ?・・・あー、たまたまな。・・・んじゃ」
リクは早々に立ち去ろうとした。
勘違いされては困る。ただ、正義感が働いてしまっただけなのだから。
「ねぇ、待って!お名前、何て言うの?」
リクは足を止めて、振り向いた。
風に吹かれた花びらを受けながら、少女は純粋な笑顔を向けている。
(・・・普通の人・・・っぽいのにな。
もしや、今朝はオレ、寝ぼけてたんかな。)
「名前なんて聞いてどーすんだよ。・・・てか、お前本当ここで何してんの?」
人を待ってる、とか。
もしくは転校生なの、とか。
そういう普通の返事を期待して、リクは聞いてみた。
「あなたとお友達になりたくて!待ってたの!」
リクはげんなりした。
・・・まじ、意味不明だ。
「あっそ。わりーけど友達には困ってねんだわ。
待ってられてもこえーから、そういうのやめてくんね」
思い出した。一年前、入学早々に女の先輩達に、やたら声をかけられたことを。
遊ぼうだの、名前はだの、クラスはとか・・・
面倒なことは、全て断って蹴散らしてきた。
最近じゃ、それを分かってその手の声は、かからない。
この謎な少女も、その類か。・・・ま、ちょっと異質ではあるが。
「そっか・・・あなたは沢山、お友達がいるのね」
「はぁ?」
「ね、お友達って、どうやって作るのかな?
あたしも、どうしてもお友達が欲しいんだ・・・!」
やめてくれ、とリクは目を閉じた。
これ以上、分けのわからないことを言わないで欲しい。
こんな変わった子じゃ、確かに友達はできねーわ、とリクは正直思った。
「あたし、あと少ししかここにいられないの。・・・だから、その前にどうしても、お友達が欲しかったんだ・・・」
「・・・ ・・・」
(そんな寂しげな顔、されてもね・・・)
「あっれ!?リクいねぇ!あんにゃろ、待ってろっつったのにー!!」
向こうで、ハルのでかい声が聞こえた。
裏門にまで聞こえるとは、相当だ。
「じゃ、呼ばれてっから行くわ」
「あっ。あ、待って待って!」
「・・・だから、いい加減にしてくれ。何なん・・・・」
歩き出したリクは、必死な呼びかけに、少し苛々と振り返った。
振り向いたリクは言葉を切った。
両手にいっぱいの桜の花を、少女はリクに差し出していた。
(え・・・?・・いつの間に拾ったんだ・・・?)
「・・・え?何、オレにくれんの?」
リクがぽかんとして尋ねると、少女は丸い目を輝かせながら、嬉しそうに頷いた。
「いや、そんなもらえねーから」
リクがそう答えると、少女は少し首を傾げ、山の中から一つ桜の花をつまみ出した。
他の花は、風に吹かれて舞っていく。
「・・・あげる。ね?」
少女の笑顔は、何て言うか・・・汚れのない笑みは、まるで子供のような雰囲気だった。
幼い子供が笑顔で寄ってくれば、人は邪険に扱えぬものだ。
・・・まさに、そんな感じ。
「・・・・あり、がとう」
リクは戸惑いつつ、仕方なく桜を受けとった。
少女はまた、心底嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また明日ね」
少女は満足したのか、リクに軽く手を振る。
「・・・いや、明日祝日だから。学校ねーし」
リクが困って答えると、少女は再び首を傾げた。
「学校、ないの?・・・そっか。でも、あたしここにいるからね」
(・・・また、わけのわかんねーことを・・・)
「よかったら、遊びに来てね。・・・待ってる」
(・・・いや、待ってられても・・・)
「リーークー!!出てこーい!!帰ってたらぶっ飛ばーす!!」
無言の会話を少女と交わしていたリクは、ハルの大声で我に帰った。
「・・・じゃ、まじ行くわ」
「うん、ばいばい」
爽やかな風が、ピンクの花びらを運ぶ。
リクは数秒少女を見つめてから、背を向けた。
新学期
春の裏門
桜舞い
心風にか
揺れてさまよう。
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