お嬢様
「フリンさん、一緒に帰りましょう?」
放課後、優香はフリンに言った。
フリンは、首を縦にも横にも振らなかった。
「あら、聞いてます?」
──あまり優香ちゃんの事知らない
──もしかしたらこの積み重ねで友達になってくれるかも
数秒黙り込んだ末に微かな声で言った。
これは、今まで人とあまり接しなかったフリンにとって大きな決断だった。そして、転校後の目標としてフリンは友達関係を作ると掲げたのである。
「じゃあ行きましょう」
優香はそういうと、学校指定の白い肩掛け鞄をかけて竹刀の入った袋を持った。
下校中、駅のホームでフリンは優香の話を聞いていた。
「はい、私のお父様は西東京スティールという会社の社長兼CEOなのですわ」
西東京スティールとは、世界に名を轟かす鉄鋼業、工業機械や情報技術などを専門とする大企業である。そして優香は、その大企業のトップの社長令嬢なのである。
その話を聞いたフリンは、内心では「自分には釣り合わない」という思いが次第に強くなっていった。
「そういえばフリンさんのご両親は何のお仕事をされているんですか?」
優香の質問に、背筋に冷たいものが瞬間的に走った。そして、まるでフリンの内心を表に出すかのようにホームに入線してきた電車の甲高いブレーキが鳴り響く。
「え?」
フリンの返答に、優香は少し気まずいものを見たような表情になった。
「じゃあ今はどう生活してるのですか?」
優香はフリンは今どう生活しているのか気になり、聞くのも気の毒と思いながら聞いてみることにした。
「でも、学校までは変えなくても──」
フリンはその言葉を聞くと、はっとした表情になった、
『──やっぱり貧乏人は来るなって事?』
「いや、そんな意味じゃ──」
優香は誤解を解こうとするも、ちょうど最寄り駅だったフリンは優香を無視して無言で電車を降りた。
「誤解ですわ」
『うるさい!』
優香は、今まで静かだったフリンが急に怒号を飛ばしたことに驚きを隠せなかった。
「あ、ちょっと──」
フリンは、何かを忠告しようとした優香を無視してそのまま歩いて行った。
──せっかく、友達になれると思ったのに
フリンの視界がだんだん濁っていった。
やがて、数滴の目から涙が溢れてきた。涙は、フリンの顔をゆっくりと滑り落ちていく。
その時だった。下を向いて歩いていたフリンは何かにぶつかった。
──痛い
フリンは、目をこすって額を手で押さえる。
斜め上を見上げると、顔の表情に怒りを露わにしたチェック柄の服を着て眼鏡をかけた男がいた。その男以外にも、同じような空気を放つ男たちが数人いた。
「どうしてくれるんだクソガキ!」
「金だ金!」
「死ね!」
男たちは、フリンを見るなり怒号を飛ばした。
「でもロリは── グヘヘヘ──」
中には、気持ち悪い笑みを浮かべる者もいた。
「どう落とし前つけてくれるんだ!」
怒り狂った男が、顔を真っ赤にしてフリンに怒鳴り散らかす。
「待ってよ山田氏、こいつはロリだから──」
「じゃあ、お兄さんたちと一緒に──」
一人の男がフリンにべたべた触ってきた。
フリンは、混乱と恐怖があいまって涙目になっていた。
「涙目も素敵だ──」
「やめてください!」
「ん?」
声に気づいた男たちは、一斉に声がした方向を向く。そこには、優香が立っていた。
「私の友達を離してくださる?」
優香は真面目な表情で、男たちに言う。
「君この子のお姉さん?」
「かわいいね」
男たちは、最初電車に向けていたカメラをフリンや優香に向け二人の写真の撮り始める。
「行きますわよ」
優香がフリンの手を引っ張って去ろうとする。
「ちょっと少しだけだから──」
男が、二人の肩に他を乗せて止めようとする。
「キャ!」
優香ははっとした表情で顔を赤らめた。
「いい加減にしてくださいまし!」
優香が男たちに怒鳴ると、竹刀を取り出す。
すると、竹刀を巧みに操り男たちに面技を喰らわす。
「今のうちに──」
優香は、呆然と立ち尽くしたフリンの手を引っ張って去っていく。
「ガキが舐めやがって!」
駅のホームでは、男たちが叫び散らかしたため駅員もやってきた。
フリンンは微かな声で、優香に言う。
「大丈夫ですわ。別に気にしておりませんので── それに、フリンンさんの事情を気に留めないで言った私も私ですわ」
「なにがですの?」
優香はその言葉に、疑問を抱く。
「当り前ですわ」
フリンの微かな言葉に、笑顔で答えた。
その頃、恵は事務所でフリンの帰りを待っていた。
「異世界転生した元ニートのエルフが作り上げた家族を追う『異の世界から’24旅立ち』。今週、木曜と金曜20時より二夜連続で堂々放送&ライブ配信。テレビアニメ史上最大のスケールで描く『異の世界から’24旅立ち』」
「ジュー君もオタルちゃんも大きくなったわね」
恵は、テレビで長寿アニメの予告を見ていた。
フリンが事務所に入ってくると、デスクの前にあるソファーに鞄を置いた。
「聞いたわよ。同じクラスの子に暴力を受けたって── で、大丈夫だった?」
その質問に、フリンは静かに暗い表情で首を縦に振った。
その時だった。紫のベールをかぶり仮面をつけた細身の女が事務所に入ってきた。
「すみません、もう営業時間は──」
「本当に申し訳ありませんでした!」
女は突然、恵とフリンの前で土下座した。
「今度の── 今度の学校では大人しくいると息子は約束したんです」
「落ち着いてください。取りえず、ソファーに」
「すみません──」
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