転校直後の暴力

6年B組

 「ええ、昨日言った通り我が聖サクラ学園小学部6年B組の25番目の新しい仲間を紹介します」

 白いワイシャツに灰色のジャケットにクリーム色のズボン、赤いネクタイを締めたロン毛の男性教師がそう言い教卓に出席簿を置く。

 そしてクラス中がざわつく中、教室の前方側の引き戸が開き転校生が入って来た。

 入って来たのは、制服の焦茶色のセーラー服にピンク色のスカーフを襟下に締め焦茶色のスカートを履いたフリンが入って来た。その途端、数人の男子はガッツポーズを取るような仕草をし女子は可愛いと言った反応だった。

「言っておくが、こいつは男だ」

 教師の一言で、クラスに冷たい風が吹いた。また、小学6年生にしては小さすぎるような気もした。

「今日からこのクラスに転校してきた織田フリンだ。みんな、仲良くしてやってくれ」




        「──織田です」



              「──よろしくお願いします」




 フリンは、聞こえるかどうか分からないほどの小声で挨拶をする。

「織田の席はそこで、ロッカーはあそこだ」

 フリンは指示されたロッカーに、カバンを置きに行く。

「よろしく」

「よろしくな」

「宜しくお願いいたします」

「ウェーイ!」

 ロッカーに向かって歩いていくフリンに、皆が各々の言い方で声をかける。

 その時、もじゃもじゃ頭の男子児童がフリンの足をひっかけた。フリンは、前向きに転ぶ。




──痛い




 起き上がると同時に、フリンは彼の姿を見る。彼はフリンを鋭い目で見つめた。殺気さえも感じる。

「なにガン飛ばしてんだよ!」

 彼のその言葉に、クラスは一気に凍り付いた。さっきまで歓迎ムードとは裏腹に静まり返った教室がそこにあった。

「なんだ? 文句あんのかよ」

 男子児童は静かに苛立ちを見せて立ち上がる。

「おい、佐藤。席につけ──」

 教師が、立ち上がった男子児童である佐藤を席に座るように指示する。

 すると、佐藤はフリンの胸倉をつかんで顔を殴る。

 クラスからは悲鳴が上がる。

 フリンは、やり返すこともなく殴られ続けた。

「おい、佐藤! やめろ、やめるんだ!」

 教師が、馬乗りになってフリンの顔面などを殴る佐藤を後ろから佐藤の両脇の下に腕を通して取り押さえようとする。

 その間に、フリンは女子二人に引っ張り出された。フリンの顔面は鼻血と傷で血まみれになっていた。

「甚八先生、この子顔が酷いことになってます」

 金髪でボブの女子が教師に言う。

「おい、誰か姫川と一緒に織田を保健室に連れてってくれ」

「私行ってきます」

「頼んだぞ」

 もう一人、女子が名乗りを上げる。

 姫川ともう一人が、保健室にフリンを連れていく。フリンは歩くこともままならないような状態だった。

「──先生!」

 姫川が保健室の引き戸を開ける。

「どうしました── !?」

 机に向かっていた養護教諭が、フリンの顔面を見るとすぐに立ち上がった。

「そこのベッドに寝かしてください」

 フリンを連れてきた二人に、そう指示をする。

 二人は意識がもうろうとするフリンを指示されたベッドに寝かせた。


 数分後──

「はい、机戻して」

 甚八がクラスの児童に机を戻すように指示をする。

「先生、あいつはどうしたんですか?」

 一人の男子児童が、フリンの容体を聞いた。

「ああ、鼻血だから大丈夫だ」

 すると、後ろ側の引き戸から鼻の穴をティッシュで塞いだフリンが入ってきた。

「織田の席はそこだ」

 甚八がもう一度フリンの席の場所を伝えた。

 フリンが席に座ると、隣にはさっき保健室まで連れて行ってもらった金髪のボブの女子だった。

 彼女からは、上品でフリンは自分とは住む世界が違うオーラが漂っていた。

 そもそも、私立の学校に通っている時点で「皆金を持ってて頭が良く、馴染むことも今まで以上に難しい」と新しい学校に馴染むことを諦める意識ががフリンの中にあった。

「私は姫川優香です。宜しくお願いします、フリンさん」

 優香の言葉と表情には上品さが溢れていた。フリンは彼女に顔に笑みを浮かべて小さく首を盾に振った。




        「──よろしく」



 フリンはまた微かな声で言った。

 やがて、午前の授業は終わり昼休憩になった。

「ああ── もしもし? 織田フリンさんの後見人の方ですか?」

 甚八は職員室で、フリンの保護者である恵に電話をかける。

「はい、そうですけど── あ、もしかしてうちの子──」

 事務所で昼食を取っていた恵は、ため息をつく。

「本当にすみません── え、暴力を受けた!?」

 他人を拒絶しがちなフリンが、クラスに馴染めず転校早々に何か問題を起こしたと思っていた恵は目を丸くして驚いた。

「喧嘩ですか?」

 恵は甚八に、詳しい状況を聞く。

「喧嘩といいますか── 一人の児童が一方的に暴力を振るったんですよ」

「その暴力を振ったという子の親は──」

「それは、個人情報保護の観点からお伝え出来ないんですよ」

「はい、そうですか── 別に謝罪を求めたいという事でもないので」

「では、失礼します」

「はい──」

 恵は受話器を置くと、ため息をつく。

「──あの子、馴染めるかしら」

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