飛び降り
その頃、公園の近くの橋では昼間の少女が川を見つめて立っていた。そして、昼間、恵から盗んだ財布を見つめる。
──来てくれるのかな──
少女が、財布を開ける。財布には、5万円ほど入っていたが一銭も使わなかった。
──でも、やっぱり消えた方が誰にも迷惑がかからないしボクも幸せになるのかな──
「おーい、みんな。コイツの親は借金作って自殺したらしいぜ!」
教室で、少女は指差し笑いながら同級生が言う。
「やーい、オカマー!」
「やーい、チビ!」
「ちげーよ! コイツはこの学校に住み着いた幽霊だよ。ゆ・う・れ・い」
「やーい、オカマ幽霊!」
髪が白く長かったり、皆と比べて背がとても小さかったり、可愛いものが好きだった彼は、気づけば一見純粋な女子にしか見えいような格好になった。そして皆が、その掛け声のように自分を罵って笑う。
「痛ッ!」
自分の椅子に画鋲を置かれ、遂には──
「借金返せねえなら炙り出すしかねぇな!」
闇金業者に、保険金目的で家に火を付けられ家までなくなった。
そんな思い出したくもない記憶が、頭に浮かんできた。
恵は箒に跨り、公園近くの上空から昼間の少女を探す。
「見当たらないわね──」
降下し公園に降りる。昼間、少女がいた場所を確認すると段ボールが敷かれたままだったが少女の姿はない。
触ってみると冷たく、数十分は人がいない事が分かった。
「どこ行ったのよ──」
恵は公園周辺を歩いて探す。走っている為か、いつもより息切れが酷い。過呼吸になっているようにも感じる。
公園の近くの橋まで来た時だった。恵は、街頭で照らされていない橋の防護柵の上に立つ人影を見つけた。それも、背が小さい。
恵は、瞬時に懐中電灯を人影に向けた。
「あ!」
「あなたは昼間の──」
そこに居たのは、昼間の少女だった。そして、柵の上には恵の財布が置いてあった。
恵が彼女に近づこうとした。すると少女は、大きく叫んだ。
「こ── 来ないで!」
恵は一度動きを止めた。
「まあまあ、落ち着いて── あなたが財布盗んだの怒ってないから──」
恵が優しく話しかけると、少女は口をかっと開いた。
「もう生きる意味も希望もない!」
少女は続けて言った。
「この世の中は、自分の事ばかりで誰も助けてくれない── 本当に信じれる人なんていない──」
少女は少し涙目になり、濁ったような声になった。
「世の中悪事ばかりじゃないわ。良い人だっていい人なんていくらでもいるわ。それに、人生これから──」
「うるさい! うるさい! うるさーい!」
少女は、恵の言葉を掻き消すかのように叫び連呼した。
その時だった。少女が足を滑らせ、柵から真っ逆さまに川に落ちていった。
少女は、目を見開き青ざめた表情になっていた。
──もう、これで良いんだよね?僕
少女が川に近づくと、恵もジェケットを脱いでシャツ姿で川に飛び込んだ。
「おい! もう一人飛び込んだぞ!」
「誰か消防を呼んで来い!」
野次馬が騒ぎ出すなか、少女が水中に入っていったと同時に恵も水中に入った。
「どこに行ったの──」
恵は目を開き辺りを見渡すが、暗いため何も見えない。息も続かず、自分も身が持たない。
諦めかけた。その時だった──
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