2.2
「…坊主はほんっと、バカだな。自分から損な役に周りにいくのなんとかならんのか?」
「俺自身は損とか思ってないですから。」
「おーおー、ハナタレ坊主がいっちょまえに…。」
はぁぁぁぁ、とロングブレス大会なら入賞を目指せそうなため息をついたのはバウンディ国境砦の防衛結界修復のために招聘された魔術師、ロイスである。つい先程、自室としてあてがわれた部屋に戻る途中でよく知った顔の少年を見つけてしまったのが運の尽きだった。根はお人好しの彼は、顔色悪くうずくまっていた少年を無視することも出来ず部屋に連れ帰り介抱したのだった。幸い、意識ははっきりしており顔色が悪いのも、旅の仲間の前で意地を張り身体強化魔法を使いすぎたせいだったのでマジックポーションがひとつ開いただけで事足りた。その後、逃げようとする少年を捕まえ経緯を話させた結果が冒頭の会話だった。
「…しかしだレオ坊。今でさえ、相当追い込まれてるソフィアの嬢ちゃんを更に突き放すような言い方はしなくていいだろうに。坊主達には聖女と呼ばれたくないってのは逆に言うならお前達にすがりたい気持ちの現れだぞ?」
「もちろん分かってますよ。」
レオンという少年の欠点をあげるとしたら、説得がものすごく下手なことだと言える。相手のことを気遣ってしまうのだと思うが信頼してる相手じゃなければ確実に思惑と違う解釈をされる言葉を選んでしまうのだ。だとしてもなぜ、内地へ戻るよう説得に言ったはずなのにひたすら突き放して帰ってくるのか分からない。
「…ソフィアちゃん頭良いですから、俺の言いたかったことはちゃんと理解してくれます。だから後は本人がどうしたいか、ですから。」
俺としては内地に戻ってほしい、でもまだまだ共に旅を続けたい気持ちもある。ありありと顔に書いてあるその気持ちを、なんでぶつけてこないかねぇ?とロイスは何回目になるか分からないため息をついた。
「薬、ありがとうございました。」
「おいおい、そっけないな。もうちょっとおしゃべりに付き合っていけよ坊主」
そそくさと逃げ出そうとしたレオンはとても良い笑顔で首根っこを捕まえてきたロイス相手に降参の意を示し近くの椅子に座った。
「しっかしまぁ…。お前なら、たとえ大怪我であろうともセシル坊やとリリスの嬢ちゃんについていくと思ったんだがなー」
「…先生がなにをいいたいのかサッパリワカラナイデスネー」
「そうやって坊主はすぐ話をはぐらかす。」
そういうところも坊主が勘違いされる要因だろうにと、会うたびに思う言葉をためいきに溶かした。
「お前は昔からあの二人のストッパーだろう。放っておくとまたなにをしでかすか分からんぞ?まぁ、俺としては開拓の町フロエラで知らないものがいないくらいの悪戯坊主がここまで立派に成長したことが感慨深いがな。」
「っっ~~~~~~!!!」
「おーおー、茹であげたポルンみたいになっちまって」
「…せ、…せん、先生!!ロイス先生!!子供の頃の話はやめてほしいかな?!」
「だが断る。若者の黒歴史を弄るのは先達の特権だからな。」
「せんせいぃー!!!」
顔を真っ赤にしてあわあわしているレオンを見ながら普段の心労に比べたらこれくらいの意趣返しは許されるだろうと笑った。
「それで?何で二人だけで行かせた。ボウズだって南門の爆破騒動は覚えてるだろうに。」
しばらく時間をおき、落ち着いたレオンにロイスは改めて聞いた。扉の近くに気配なく控えている護衛騎士に一瞬目を走らせるが、レオンはその言葉にロイスを見え答えた。
「今の二人なら大丈夫だって思ったからです。…まぁ、暫くはっていう枕詞がつきますけど。」
「たいした自信だな?」
「えぇ、…二人にはというか。セシルにはですけど。セシルは元々「やっちゃいけないこと」っていう線引きが薄いの先生も知ってますよね?だから、非合法組織壊滅のために廃墟街とはいえ火薬と〈火球〉で大爆発起こしますし、肉が美味しいからって角うさぎを絶滅の危機まで追い込みますしってやりすぎちゃうんですよね。」
「あったなぁ。角うさぎも魔物だから今ではもとの数に戻ってたが、しばらく雑草処理と虫系の魔物駆除がギルドを賑わせてたものだ。」
「まぁ、そんなセシルだけど。この旅の間に俺とソフィアちゃんの二人でしっかり「ダメなこと」教え込んだので暫くは大丈夫かなと。あくまで付け焼き刃なのがたまにきずですが。」
「…まぁ、坊主がそういうなら良いんだがな?」
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