第2話

「……ね、あたしの夢、聞きたい?」

 突拍子もない問いかけに、さくらは「は?」と返す。

「人間っていつか死ぬじゃない? どうせ死ぬならどうやって死にたい?」

「えぇー……老衰とかかな?」

「この高齢社会で老衰なんて迷惑だよ」

「世の老人に失礼なことを言うね、あんたは」

 呆れるさくらを脇に置いて、マチ子は皿に残ったつくねの残骸を箸でいじりながら続ける。

「あたしはね、好きな人の手で殺してもらいたいの。好きな人の腕に抱かれて、ギュッと絞め殺してもらいたいの。可能なら、彼の背中越しに満点の星空を仰ぎ見ながら」

 つくねを頬張るマチ子の瞳の中には星がキラキラと輝く。

「で、ミートパイとかに調理されて、美味しいって食べられて、彼の細胞に溶け満ちていくの」

 アイコスを取り出したさくらは「あんたって――」と言葉を切って、ひと吸いしてフーと煙を吐いてから。「変態ねぇ……」と憐れむような表情を見せた。


 秘密基地の中央、段ボールの上に転がったじゃがりこの空き箱を3人の少年が囲んでしゃがんでいた。

「ホームレスかな?」賢治の問いかけに「ホームレスがじゃがりこ食うか?」と拓郎が眉をしかめた。池田純は無言で空き箱を拾い上げると、リトルリーグで少しだけ鍛えた肩でもって川の方に投げ捨てた。


 学祭を翌週に控え浮足立つ大学の学生会館の地下は、絵の具が混じり合って汚れた床のように、色とりどりの音楽や声が混じり合う。そんな喧騒の中、まるで誰にも認識されていないような静かな一角で、三咲が写真サークルの立て看板を黙々と塗装している。吹き抜けから落ちる陽の光も相まって神々しい、撮らずにはいられない、とマチ子はカメラを構える。

「おい、何さぼっとんのじゃ」

 後頭部をこづかれ、振り向くとさくらがいた。

「三咲先輩の背中って、抱きつきたくならない? あと長めの袖口マジで萌える。下向いててメガネがずれてるところとか」

「わっかんないなぁ。てか、あの人なに考えてるのか全然わかんない」

 さくらの返答にマチ子はニタ~と破顔した。

「あぁ、良かったぁ。だって、彼の良さにみんなが気付いたら面白くないもん」

「うわぁ、キモ……あ」

 さくらの視線を追ってマチ子が振り返ると、三咲が作業を中断し階段を上っていくのが見えた。「マチ子~?」というさくらの言葉を後ろに流しながら、マチ子はあの抱きつきたい背中を追いかけた。

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