すすきの原で、きみを待つ

@sa4mi

第1話

 郊外の河川敷というものは、特にススキがのさばる季節になるととりわけ秘密を隠すのにうってつけの場所であると誤解されやすい。だが、それは大きな間違いで、河川敷から外は見えずとも、土手上からは何もかも丸見えなのだ。男女の逢瀬も、プロキシマケンタウリの船も、誰かの死体も。

 うら若き女子大学生・福原ふくはらマチ子は、うんこ座りで構えたカメラのファインダー越しに、いがぐり頭の男子中学生を捉えていた。まだ少年と呼べる青臭めのいがぐり探検隊は、3つ並んでせっせとススキをかき分け進んでいく。どうやら手に段ボールや木の枝を持って運んでいるようだ。その整えきれてない眉毛までズームしたところで、マチ子は「はっ」と口を歪め笑った。咥えていたじゃがりこサラダ味が口元からこぼれて、健気に生きるアリたちにタナボタを降らせる。清流をなぞって吹いた秋風が、マチ子のスカートの中を爽やかに通り抜けていった。そんな芸術の季節。


「で、あんたは芸術祭でこれを出品するわけね」

 写真サークルの部員が10人も入れば貸し切り状態となるいつもの居酒屋。同期のさくらがマチ子の現像した写真を見ていた。「そ」得意げにあごをあげたマチ子は、エイヒレを噛みちぎって見せた。3枚の写真には、すすき野原、すすきで覆われカモフラージュされた秘密基地、そしてそこで倒れる渾身のマチ子が写っている。

「この秘密基地はまさかひとりで作ったの?」

「いやぁー、留守のところを……」

 視線を奪われる。2学年上の三咲光明みさきみつあきが店員を呼ぼうとして失敗していたからだ。愛しい。彼はいつもトイレ前の席でスマホをいじっている。なのに必ず飲み会にいる。ああ、愛しい。マチ子はエイヒレと共に噛み締めた。

「おい、聞いてんのか」

「聞いてる聞いてるー」

「これ、最後の1枚だけど、なんで寝てるわけ?」

 マチ子は三咲から視線外し、さくらの方に向き直る。

「……ね、あたしの夢、聞きたい?」




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