第22話 いつかわかるときが来る

「ばんざい。もうこれで、とらきちはこないよね。」

「あたしたち、だれも食べられたりしないわ。」

おまつりが始まりました。みんなで7の段ソングを歌いました。

7の段盆おどりも踊りました。

みんなで楽しく歌ったり踊ったりしていると、またまた大きなおにぎりが転がってきました。それはよく見ると、全然おにぎりではありません。でんぐり返りでころげている人間のじいさまです。黒い着物とふっさふさの白髪と白いひげ。まるまっているとおにぎりそっくりです。

どうやら、さきほどのおにぎりを追いかけて、ねずみの国へ落ちてきたようです。

ヒャッホー。これはすごいおまけです。このじいさまがあれば、ねずみ国の食糧危機は絶対回避されたも同じです。みんな大興奮の上にも興奮を重ね、思わず、あの懐かしい言葉をさけびました。

うらー! うらー! うらー!

あるじ・やーのんはくしゃくのきせきだ!


ひらがなとカタカナは全く違います。実はこのままいくと、どえらいことに陥る羽目になろうかというとき、あのばあさまねずみが思い出しました。

「だめだダメだ駄目だ!これはひらがなだ!カタカナに変換せねばならぬぞ!」

えっ!

「これは伯爵からの伝言だ。いつかわかるときがくる。それまで忘れぬように。いったい何のことかと、伯爵もおボケになったかと思ったものだったが、これだったか!」

伯爵の名前は絶対です。

ねずみたちはみんな、その小さい脳みその中から変換キーを探し出してONにしました。DNAに刻み込まれてはいますが、今の今まで使うことがなかったもので、多少時間がかかりましたけれど。

ウラー! ウラー! ウラー!

成功です。


伯爵は自分亡き後のねずみたちのことを心配して、せめてカタカナとひらがなを区別できるだけの知性を維持するようにと願い、呪をかけたのでした。ばあさまねずみはこれを思い出したのです。


さて、このころ、落ちたショックで失神していたじいさまが目を覚まして起き上がりました。いかにも腰が痛そうです。

「おじいさん、薬草をどうぞ。」

「これはトリカブトの湿布です。打ち身には効果てきめんです。」

じいさまはトリカブトと聞いて震えあがりました。でも、そんなことはおくびにも出さず、さも大人(たいじん)かのように言いました。

「おお、ねずみのみなさん。ありがとうございます。」

「おじいさん、おにぎりをありがとうございます。」

「おじいさんのおかげで、とらきちはもう来ません。」

「ぼくたち、もう、ねこに食べれれなくてすみました。」


ばあさまねずみはチッとしたうちしました。

間違えて過去形なんぞ使うなんて、このヒト科のじいさまに気づかれたら安く見られてしまいます。

これだから、いまどきの若ねずみはのう。

でもばあさま、昔っから、舌打ちは育ちが悪いネズミのすることじゃなかった?


ばあさまは小さい脳みその中の灰色の脳細胞を総動員しました。

そして急いでかつ丁寧に付け足しました。

「おじいさん、ねずみの踊りをご覧くだされませ。」

みんなも口々に言いました。

「ねずみのうたをきいてください。」

「おじいさん、ごちそうをたべてください。」

飲めや歌えの大宴会が始まりました。酒池肉林もいいとこです。

あのチューチューねずみも踊りの輪に入っています。

ま、それはそれとして。

楽しい時間を過ごしたおじいさんでしたが、そろそろ帰る時間になりました。

ねずみの国の1時間は人間の国の10年です。おじいさんははそんなこと知りませんけれどね。

「おじいさん、たからものをどうぞ。」


こうきたか。おじいさんは、やっぱりな、と思いました。昔話の言い伝えの通りの展開だな。

「この宝物は、人間にしか使えない宝物です。ねずみの国を救ってくれたにんげんにさしあげるものです。どうぞ、受け取ってください。」

「えっ。酒池肉林の他におみやげなんてくれようというのかい。そんな訳にはいかないよ。それではあまりに図々しい。」

おじいさんは一応、遠慮したふりをしました。

「いいえ、言い伝えで決まっているものです。ご遠慮なさらずに。」

ねずみたちのたっての願いで、おじいさんはおみやげを受け取ることにしました。

よかったと、みんなが胸をなでおろしました。

こういうことには順番がありますから。


「大きいつづらと小さいつづら、どっちがいいですか。」

「金の斧と銀の斧、どっちがいいですか。」

そうきたか。おじいさんはやっぱりな、と思いました。

「ほかにないのかい。」

え?決まっていることなのに、このおじいさんたら変てこリンだねえ。

もちろんおじいさんは一発クリアです。

ねずみたちは内心、悔しがることと言ったら!

一発クリアできたことには、訳がありました。

正しい方のたからには、明確にあるしるしがあったのです。

「J to T」

どうやらねずみにはみえないようでした。

じいさまがしるしを見たことを確認すると、やがてそのしるしは薄れて消えていきました。

…ねえ、これなんのしるしだったの?


 それではまた明日の夜22時に!

おじいさんが無事に帰れますように!

















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