第18話 大統領、バルコニーに立つ

とらきちは消滅しました。 

さあ。大統領の出番です。

大統領は大統領府のバルコニーに立ちました。

大統領の目に、今しもねずみ算で国民がどんどん増えているのが見えました。

つい数分前までたった7匹しかいなかったなんて、嘘のようです。

大統領は叫びました。

「ねずみランドの国民よ!」


大統領の目に、灰色の、なんだか妙にもふもふした雲がわきあがってきていのが見えました。よく見ればまったくそれはねずみの色そのものでした。まるで雲霞の如くわいてきています。ねずみです。国民ねずみが増大しているのです。


ネズミ算どころではありません。一体全体、どうなっているのでしょう?仮に算数の先生がここにいたとしても、この増え方を数式で表すなんてできっこありません。

これは魔法の力に違いない。灰色のねずみの灰色の脳細胞はそれなりに答えをだしました。でも、そんな魔法を使えるねずみなんて、誰も聞いたことがありません。

こいつか?あいつか?いや、もしかして自分かも?


「ねずみランドの国民よ!」

感動しすぎて慌てたものですから、「わがねずみ共和国の人民よ」というべきところを、「ねずみランド」と言ってしまいましたが、幸いなことに誰も気がつきません。

「ねじみランドの国民よ。今までよく耐えた。これまでの長年の辛苦が、きょうここで終焉を迎えたことを宣言する。とらきちは永遠に消滅した。わがねずみランドは未来永劫、とらきちに国土を蹂躙されることは二度とない。」

大統領が高らかに勝利を宣言します。

ウラー、ウラー、ウラー。

感動の波が、広場を覆います。

大統領は続けました。

「諸君。諸君に、二人の勇者を紹介しよう。それは、最後の一人になってもなお、勇気を失わず探索の旅を続けて帰還した第777号スパイねずみだ。この勇者なくして、ねずみランドの継続はありえなかった。」

ウラー、ウラー、ウラー。

「それから、あの有名な魔法使い、アルジ・ヤーノン伯爵だ。伯爵なくしてとらきちの消滅はありえなかった。」

ウラー、ウラー、ウラー。

え?伯爵?それって、誰なんだい。聞いてないけど。まいっか。

なにしろねずみの頭は小さいのです。

情報が入りきらない分は風にのって流れちゃいます。


「最後に、世界に散っていった776名の名もなきスパイねずみのために、黙祷をささげることを許してほしい。生きて戻った一名を足して、騎士団の777名全員をねずみランド復興の祖として、福者として讃えたい。」

ウラー、ウラー、ウラー。


 大統領ばんざい、アルジ・ヤーノン伯爵ばんざい、第777号ばんざい、騎士団万歳!

ねずみたちの声が大きな渦になって国中を駆け巡ります。

中でも、第777号の顔は誰よりも晴れやかに輝いていました。スパイですから表立って顔出しすることはできませんが、それでも、バルコニーのはしっこ、カーテンの影に半分隠れて、あふれる涙をぬぐおうともせず、大満足で立ちつくしています。

もし、誰かが双眼鏡を持っていたとしたら、SP二人が第777号にそっと寄り添って立っているのが見えたことでしょう。


おおきなねずみ花火を打ち上げ、ねずみ焼酎の大判振る舞いがあり、ちょうちん行列はいつまでも続き、ねずみランドの栄光と繁栄は永遠に続くように思われました。


 ※そう、文明は滅び去るのです。ローマしかり、アレキサンダーしかり。

あの名作「猿の惑星」のオープニング、覚えておられますか?

滅んだあとは22.5度の変位で次の文明の地がすでに決定されているといいますけれど、さあて、どうでしょうか。

2001年に再発見されて以来、諸機関で密かに研究されているという、モノリスの情報発信は、生きとし生けるもの万物の波動に影響を与えているのでしょうか。

ねえ、とらきちはどう思う?


ふん、そんなのしるかいっ!

ではまた明日。

おやすみなさい。

みなさまに良い夜を!

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