第17話 最後の闘い
「えいっ。どうだ、とらきちめ。」
とらきちは、少しぼうっとしてきました。
おなかがへりすぎていたのです。
ねずみはあと7匹しか残っていません。
全部、勢いにまかせて、自分で食べちゃったのですもの、しかたがないのに。
「おいらの極楽も、これでおしまいかなあ。」
なんてぼんやり考えて、悲しい気分でいたのです。
そうしたら、なんかしらないけど急に7の段の表が出てきたではありませんか。
とらきちは大びっくりでひっくりかえりそうになりました。
「こいつはまずい。」
とらきちの三番目のひげがぴくぴくしました。
「三番目のひげがぴくぴくしたぞ!」
「この調子だ、次は7の段の歌だ!」
「おう!おう!おう!おう!」
最後に残っていた7匹のねずみが声をそろえて高らかに7の段の歌を歌いました。
大統領、大統領夫人、大臣、SP2匹、会計士、タバコ係、そして第777号の7人です。おっと、大統領夫人は先週、国家のために命をささげていましたっけ。
「しちいちがしち~♪」
7匹のネズミは、それはもう必死になって7の段の歌を歌いました。
「しちとうしちじゅう」まで順調に上がり算を歌いました。
「しちじゅういち しちじゅうしち」ここからは間違いが多いので、緊張です。
下り算になりました。
何回も何回も繰り返しました。
汗が流れ、涙と一緒になって、あたりが見えているのかいないのか、よくわからなくなってきました。それでも心をひとつにして、歌い続けました。美しいハイトーンのハーモニーが続きます。
776匹の騎士団とそのほかの国家に大切な命をささげた御霊たちよ、われらに力を与え給え!
そこらの空気がびりびりと震えました。
何か不思議なエネルギーがそこらいったいに満ちてきているのを、全員が感じました。とらきちでさえ、感じたのです。なにか大事なものがあったような、忘れてはいけないものを忘れていたような、そんな気がしてとらきちはドキドキしてきました。
かすかな不協和音がとらきちの耳をかすめました。
もしも、誰かが数えていたなら、それが777回目の上りかけ算だったことがわかったことでしょう。
でも、誰も数えていなかったので、777の持つ不思議な力は今回も知られることはありませんでした。
「しちいちがしち、しちにじゅうし、しちさんにじゅういち、しちしにじゅうはち」
ここまで歌った時です。
とらきちが急に静かになりました。
それまで、あくびをしたりはなくそを掘ったり、はなくそを丸めて飛ばしたりしていたとらきちが、急に動かなくなりました。
何だか固い棒みたいピーンと直立不動しています。目線は一点をみつめたままです。
完全に固まっています。とらきちにしかけるなら今です。でも、もう誰にもその力は残っていません。歌いすぎたのです。
とらきちの頭の中で、何かがパチパチはぜました。何かは、それから爆発し、そして急に収縮したのです。
とらきちの体から力が抜けていきました。
とらきちの目から光が消え、とろとろん!とした目になりました。
そして、とらきちは急に、ふにゃふにゃのあかんたれねこになってしまったのです。
それだけではありません。
ふくらんだ風船がしぼむように、とらきちはどんどんしぼんでいって、とうとう一枚の薄いねこに変わりました。
そして、ふらふらと、風に乗ってどこかへ飛んで行ってしまいました。
とらきち、とらきち、どこへいってしまうの?
答えは風のなかに、ね。
とらきちって、本当に7の段がきらいだったのですねえ。
とらきちを駆除した歌には、実は続きがありました。
最後は乱れ算で、順番を変えてとらきちに答えを問う、それでラストだったのです。
この最後のバージョンはとても危険で、お互いに命を失うこともあったので、歌わずにすんだことはラッキーなことでした。
とらきちがどこへ飛んで行ってしまったのかは、ねずみランド正史に記載がないので、ここでは不明といたします。
※「おう!おう!おう!おう!」のところ、例のあれと同じですからね。
そこのところ、よろしくお願いいたします。
それでは明日の22時に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます