第16話 準備万端

 第777号の話が伝わるにつれ、国中が沸き上がりました。

とらきちがマスターでないということは、とらきちは7の段に弱いということです。

第777号が集めたとらきちの噂は、どれも最重要国家機密になってとらきち退治の技に使われることになりました。作戦が決まるその日まで、とらきちに知られてはなりません。かしこいとらきちのことですから、寝首をかくことなんかお手の物だと、ねずみたちはみんな疑いもしませんでした。だって、ねずみにとっては、自分がいつもやっていることイコール他の誰だってやることですもの。


とらきちが聞いたら、あさってこんかい、なんて言って例のおしっこかけを始めたにちがいありません。もう、むちゃくちゃ怒り出すことでしょう。ねこは卑怯なことはしないのです。ねずみは食べますけどね。中でもとらきちはスーパー単純ねこと言ってもいいくらい。そんなとらきちが寝首をかくなんて、あらまあ。過大評価されたものです。ただひたすらに食べるだけのとらきちなのに。


まあ、本当のところは、とらきちが賢いのか賢くないのか、ねずみには結局ぜんぜんわからなかったのです。ねずみたちは777号が持ち帰った情報をあれやこれやと分析し、推測に推測を重ねて討論を重ね、対策をたてようとしたんですが、会議ってものはたいていいつも踊るばかり。まとまるっちゃあないのです。


このとき一匹のおおものねずみが招集されました。

元校長先生の大統領としては招集なんかしたくなくて葛藤したのですが、滅亡を前にした今、葛藤はいったん考えないことにしてカットしたのです。元校長先生あがりの大統領もこのへんはなかなか立派です。

いくら自分のことを心配したって、国が滅び去ってはなーんにもならない、そこに気が付いたのでした。


おおものねずみ、それは「伯爵」という立派な肩書をもつ、生まれも育ちも大統領とはダンチのねずみでした。

いったいそんなん、どこにおったんちゅうのかい?


ねずみの脳みそは小さくて、記憶海馬も小さいものです。

一人の年老いたばあさまねずみが耳の穴をかっぽじってるとき、穴の奥から引き出してきた情報でした。記憶海馬のはしっこをひっかけてしまったようです。でも、さすがばあさまです。亀の甲より年の劫です。


伯爵はこれまでの話を聞くとあっというまに方針を定めました。

伯爵にとってはこんなこと、朝飯前です。ちょちょいのちょいです。

ね、おおものでしょ?


 対策が決定事項となった日の夜、ねずみランド(今はねずみ共和国)では全員が喜びのダンスを踊り狂いました。ちょうちん行列もしました。チーズやおだんごの屋台が出て、打ち上げのねずみ花火が何発も何発も、シュルシュルと打ち上げられました。

あの…全員といっても、このときは、いよいよ最後に残った7匹だけだったんですけれどね。何しろとらきちの食欲といったら、あのネズミ算もかたなしでしたから。


 夜が残ったその間に、方針に沿って、みんなで7の段のおおきなポスターを作りました。蛍光色のポスカで、おいしそうにふくふくと太ったネズミの絵柄を描いて派手に仕上げました。とらきちがどこからどう見ても絶対に目をはずしっこない、かつてない前代未聞のねずみランド史上最高の、対とらきち大作戦のポスターです。

 原料はねずみモチ。ねずみモチの白い花と米粉をよく混ぜて水で延ばしてこね、綿棒で薄くのばします。

 そこに、やっぱり米粉で作ったおにぎりを7個ずつセットにしてくっつけたら出来上がりです。

 7匹の国民みんなが力を合わせて、それはそれはおいしそうな迫力満点のポスターが出来上がりました。


 出来ばえときたら完全無欠です。

あまりに完全すぎて、油断するとかじりそうになっている自分を発見して慌てて踏みとどまる、そこまでの出来栄えです。

だって、ねずみたちは寝ないで働いたものですから、おなかが減ってふらふらになっていたのですもの。誰がかじっても不思議ではないのです。みんな、そこまで追い込まれていました。

「どんな味だろうな。ちょっとかじってみたいな。」

みんながそう思っていましたが、そこは背水の陣の真っ最中。味見をする不届きものは、だれ一人としていませんでした。

 次に、7の段の歌を作りました。不協和音をちょっとだけ入れて不安をあおるようアドバイスしたのも伯爵。楽曲に仕上げたのは、元校長先生、現大統領閣下です。なにしろ、元の元は、競争率400倍の、マウス歌劇団作曲専科&楽理専科教授でしたからね。 


さあ。

準備万端、怠りなし。

いよいよです。

みんなは、朝ご飯を食べに来たとらきちの周りをとりかこみました。

「やあやあ。正義はわれにあり!」


※とらきちはどうなるのかしら。

ちなみに、ネズミモチは植物です。高速道路の料金所とかによく植栽が見られます。

では明日の22時に!

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