第8話 とらきちと7の段のひみつ つづき
小難しい話はここまでにして、とらきちの話にもどりましょう。
7の段は、ねこの国ではとにかく大事な勉強でしたよね。
それは、ねこの国では、7が超特別なスーパーナンバーだったからです。
そんなこと、マリリンモンローもコモンローもへったくれもない、当然の事実。
そして、7の段には世界の秘密が隠されている、7の段を極めることは世界の秘密、創世の秘密を知ること。
そこまで進むのはなかなかですが、その他にとてもわかりやすい特典というか、ご利益がありました。
たとえばネズミを食べるとき、7匹ずつ食べると、絶対におなかが痛くなりません。
すこしばかりおなかをこわしているネズミを食べたとしても、大丈夫なのです。
それどころか、7の倍数でありさえすればどんどん力がわいてくるという、なんとも不思議な現象が起きるのです。
胃腸がよわいねこにとっては、こんなにうれしいことはありません。
「数魂だよ」と算数の先生は言います。
でもそれは、先生の授業を受けていたらの話で、そうでない場合は、この数魂は成立しません。算数の先生の力は、それほど偉大なのです。
まったく、いったい何次元の宇宙までその力が及んでいるものやら、もはや算数の先生の計算力をもってしてもわからないのでした。
とらきちは、先生の授業はきちんと受けています。試験だって、自慢じゃないけど、誰よりもたくさん受けています。だから、誰よりも先生のパワーを受けていたのかもしれません。
なのに…
とらきちは、7の段とはもうそりゃ悲劇的に合わないのでした。
どうしてなのかは、誰にもわかりません。相性が悪いというのでしょうか、とにかくそういうふうに出来ちゃってるのです。ほかの段ならぜんぜん大丈夫だし、7の段だって、内緒で足し算しちゃったらら大丈夫なので、数魂がないというのではありません。うーん、やっぱりアレルギーでしょうか。
でも、ねこの国では、7の段へのアレルギーは絶対に認めてもらえません。
そんなの、ありえないことだからです。
だからとらきちは、そりゃもう大変。あっちを見て、こっちをみて、時にはミーちゃんの口の動きをみて解読したりしていました。ミーちゃんはとらきちに答えを教えているつもりなんか全然なくて、ただ、あまりにとらきちが混乱しているものですから、つい、勝手に口が動いてしまっていたのです。持つべきものは友人です。
心頭滅却すればなんとやら、そんなことを頑張ってるうちに、とらきちは、読唇術ができるようになっていました。ちらっとみて判断できるのですから、凄いものです。視力だって完璧。まったく、何が役に立つものやら、努力は時々、とんでもないご褒美をくれるものです。
とらきちはいつもは何とかうまく足し算をして隠しているのですが、試験のときにはどうしもそのやり方は無理で、ばれてしまって試験官のひげをピクピクさせてしまうのでした。試験官は黙っているだけで、口を動かしたりしませんからねえ。
で、再試験。で、また失敗して…練習して…失敗して…とらきち、根性だけはあったのですねえ。
じゃあ、とらきちはいったいどうやって、こんなに大きくなれたのでしょうか。
それはね。
実はとらきちは、ネズミを食べるとき、いつもばあさまねこに勘定を手伝ってもらっていたのでした。
たとえばとらきちの朝ご飯は、ネズミ7匹を3回おかわりします。
ふつうのねこはおかわりなんかしないので、これだけでも、とらきちがどんなに元気なねこか分かります。
お昼は、給食です。
給食のメニューはだいたいいつも同じです。
ねずみパン、7個。
ネズミゼリー、7個。
ねずミルク、7杯。
ねずみバターとか、ねずみふりかけとか、そんなのがあった場合、とにかく7か7の倍数。
あ、小麦もゼリーもミルクも全部、ねずみ印のもの。安全を保障されています。リッキーガット症候群なんて、絶対になりません。抗生物質なんてものもありませんから、砂糖も大丈夫です。だから、アレルギーだって起こりようがないのですけれど。
まあ、わからないけど出ちゃうのがアレルギーだし、7の段がアレルギーの原因だってこと、そろそろ認めてくれてもいい筈なんです。なのに、頑なに認めない姿勢はどうもよろしくないのではないか?なんて意見が出ては消え、また出ては潰され…いったいどちらが陰謀論者なのだか、まったくもう。
で、晩ごはんなんかは、ねずみステーキが7枚と、伊井屋特製ねずみアイス7個です。
酒かす風味ねずみ饅頭とか、仙寿庵の若鮎とかがあれば、それも7個。
とらきちは時々、晩ごはんのおかわりをしますが、もちろんどれも7個ずつのおかわりです。
とらきちとばあさまは二人で相談して、そこのところだけは外さないと決めていました。どうせ食べるなら、効果的な方がいいにきまってます。そこはとらきちとばあさま、ぬかりありません。
でも、長いねこ生の間には倦怠期もあるもの。油断も生まれます。この二人がいったいどうやって情熱をキープしたのやら、はて?
まったくの謎です。
などなど、ばあさまねこのおかげで、とらきちは、それはそれは立派な超特大ねこになっていたのでした。
普通はこんなこと、めったにないんですけれど、実はばあさまねこ、普通のばあさまねこじゃなかったんです。ばあさまねこは、リタイヤした算数の先生だったのです。
そんなこと、ばあさまねこはねこなもので、すっかり忘れていたのですが、体はしっかりと覚えていました。たとえば、AとBとCを食べるのに、どの順番でいつ食べると筋肉にいちばんよい結果がでるか、海馬によい影響を与えたい場合はどうか、とかそういうことです。
だから、うすぼんやりしていても、ばあさまねこはまちがいにすぐ気が付くことができました。7の倍数を間違えるなんて、ねこがワンと鳴くよりありえないことでした。
とらきち、ばあさまねこに感謝しなくてはね。
※まったく、亀の甲よりとしの甲。漢字、これであってますでしょうか?
とらきちに付き合ってたら、なんだかおかしくなってきました。
続きの続き、また明日にね。
きょうはタイガースが勝ったので、とらきちもいつもより晩ごはん、たくさん食べ たみたい。
タイガース、前進せよ!
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