第28話 元諜報員はエルフの王女を仲間にする ②
タッタッタッタッ!!
【透過】を解くと同時に、可愛らしい足音がダンジョンに響き、俺は頬は自然に緩む。
「ベイル様ぁあ!!」
俺の足にダイブしてくるソラの頭に手を置きながら、その可愛さにキュンキュンする。
(こ、これはアレだ。……なんだ? も、もう愛おしくてたまらんッ!!)
先程までの思考をぶん投げて、ただただソラの可愛さに胸を高鳴らせながら優しく抱き上げると、ギンギンの視線を察知し、思わずゾクッとする。
恐る恐るそちらに視線を向けると、キラッキラの瞳を潤ませて、頬を染めているエルフの姿があった。
「ふふっ、ベイル様。リュカちゃん『も』ベイル様のこと『あいしてる』んだよ?」
「ソ、ソラちゃんッ!!??」
「………そ、そう」
俺の腕の中でソラの言った衝撃発言に、エルフは全身を真っ赤にさせ、俺はシンプルに人見知りを発揮した。
【透過】を解いたので一応、事前に【鑑定】しておこうと思っていた俺だが、もう正直それどころではない。
「あ、あの……、こ、これは、え、えっと……、その……」
プスプスと湯気を出しながら、目をグルグルと回しているエルフの姿に思わず笑ってしまうと、エルフはボンッと音を立て、その場に倒れそうになる。
しかし、エルフは寸前のところでそれを拒否し、俺の目を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。
「……ぼ、わ、『私』をお、『お嫁さん』にして下さいッ!!」
もうかっこよさすら感じる鬼気迫った美貌に、俺は思わず見惚れてしまった。キリッとした表情には、先程の涙の跡がくっきりと残っている。
(……強いな)
一切濁りのない翡翠の瞳は薄暗いダンジョンでキラリと光り、真っ直ぐに俺を見つめている。俺はゴクリと息を飲むとゆっくりと口を開いた。
「……よく考えて? それでも、俺なんかの事を旦那にしたいと思うなら、もう一度教えてくれ。今はまだ、ゆっくりと思考も纏まってないだろう?」
「わ、『私』の心は決まっています!!」
「……俺の名前も顔も知らないでしょ?」
「『ベイル・カルナ』様です!! お、お顔は見れてませんけど……、でも……」
エルフはグッと唇を噛み締める。
俺はその姿に、ある直感めいた物を感じた。それは、『俺は将来、このエルフと結婚する』と言う物だ。
なぜかはわからないが、わからない事が嬉しかった。これまでは全てを疑い、気の済むまで情報を精査し、あらゆるリスクを減らす事ばかりだった。
【鑑定】すらしていない、『亡くなったはずの王子』というひどく曖昧な情報だけのはずなのに、俺の直感がいま目の前にいるこのエルフを「信じてみろ」と言っている。
――全てを疑え!! 真実を見極めろ!!
『アイツ』の声が聞こえるが、俺はゆっくりとマスクに手をかける。ソラの時とは違い、なかなか緊張するがこれが俺に出来る精一杯だ。
「えっと、『リュカ』? 改めて、『ベイル・カルナ』だ。とりあえず、『お嫁さん』の前に『仲間』じゃダメかな?」
リュカは俺の言葉に大きく瞳を見開き、みるみる顔を赤く染めると、
「よ、よろしんですか!! 一緒に……、ソラちゃんと同じように僕も側にいていいんですねッ!!!!」
とうるうると涙を溜めた。
「ん? あぁ。ソラもそれでいいかな?」
「うん!! ソラはリュカちゃん好きッ!!」
「そっか……!」
ソラの屈託のない笑顔は魔法のようだ。こちらまで笑顔にさせてしまうようなとっても幸せな魔法だ。
「う、うぅ……ソ、ソラちゃん……! ありがどおー」
「リュカちゃん! 泣かないで!」
俺はソラを下に下ろし、リュカの方に行くように促した。ふぅ〜っと深く息を吐きながらも、不思議と不安感はない。
泣き崩れ、ソラに頭を撫でられているリュカを見ながら、(信じてみたい物を信じてみるのは、こんなにも気持ちのいい事なんだ……)などと思った。
しばらく、はちゃめちゃ可愛いソラがこの世の生物とは思えないほどの美貌のリュカを慰めている様子を微笑ましく眺めていたが、俺は1つ気になるを思い出した。
(お、俺、ここからマントなしで行くのか……?)
先程の1人でのスピードでは、おそらく全ての受験者は視認していなかっただろうが、いまからは3人で足並みを揃える必要がある。
改めてゴクリと息を飲みながら、グッと決意を固める。まぁあんなひどい格好のリュカからマントを返して貰うわけには行かないし、一種のリハビリと考えればいいか……などと判断していると、2階層に『銀翼(シルバーウィング)』の気配が近くなって来たことを察知する。
(もう後は任せればいいな……)
そう判断した俺は、2人に声をかける。
「行くよ? ソラ! リュカ!」
2人してポーッと顔を赤く染めていて、俺は首を傾げると、
「も、もうだめ……。し、死んじゃう……」
「ベイル様!! マ、マスクしててね? ずっとッ!! ソラとリュカちゃん以外には顔見せちゃ嫌だよ?」
とリュカは撃沈し、ソラは何やら必死になっている。
「ん……? それなら安心していい! 素顔を晒すなんて、恥ずかしすぎてまだ無理だから!」
俺はそう言いながらマスクを装着すると、【青焔】の牢屋を解き、ゆっくりと歩き始めた。
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