第19話 元諜報員は異変を察知する
ーーー初級ダンジョン
ソラを抱えたまま、「2階層」へと降りた。
(《超感覚》……)
即座にギフトを発動させ、現状を把握するがこのままでは先行している『試験官』に追いついてしまいそうだ。
(……ん? これが『魔物の気配』か? ……? 気のせいか? これは『動物や害虫』、『特殊な魔道具』と似たような気配。思ったよりも強くないな……)
似たような気配を察知した事はあるが、実際に見てみるまでは何とも言えない。まだ2階層目だし、下級の中でも最弱なんだろうが、決めつけるには時期尚早。
実際に対峙しないと力を見せないタイプの可能性も考慮すべきだ。
(確か5階層までは、『スライム』と『ゴブリン』という魔物だったな。『写し絵』は無かったし、姿を確認して討伐するまでは気を抜けないな……)
受験者は18人。明らかに数が少ない。
ソラと話をしている時にはちょうど半分くらいの位置で、目立たないようにしていたが、【身体強化】と【超加速】の発動でかなり追い抜かしてしまった。
未だにギュッと俺にしがみついたまま、ポーっと頬を染めているソラの視線も気にはなるけど、不思議と恥ずかしさはない。
「ソラ、降ろすよ?」
「べ、ベイル様は『神様』なの……?」
「……えっ? そんなはずないでしょ?」
「『人間』……ううん、生き物のスピードじゃないよ? ソラもかけっこは速いんだけど、ソラなんかより、ずっと、ずぅーーっと速かった!! ビューンッて!!」
すっかり泣き止んだソラはキラキラと瞳を輝かせ、ニコニコと笑顔を浮かべている。
(……か、可愛い……)
俺が、至近距離の弾ける笑顔にやられていると、ソラは更に言葉を続ける。
「えっとねぇ、追い抜いた人達も急に強い風が来たから、『びっくり』して『こまった』よ!! ベイル様の事見えてなかったんだね!! ソラ、あんなに速く動いたの初めて!!」
「……? ソラは追い抜いた人達のこと見えてたのか?」
「ううん。『匂い』がしたからッ!」
ニコニコと楽しそうなソラに頬が緩みながらも、狼人の【超嗅覚】の有用性に驚く。
(おそらく【超感覚】と似たような物だろうな。俺が【透過】していても気づくんだから、【超感覚】より優れている可能性もあるかも知れない)
【超感覚】は【透過】を見破れない。それは実証済みだから間違いない。ソラは考察している俺を不思議そうに眺めている。
「すごいぞ? ソラ!」
俺がそう言って頭を撫でると、ソラは「ふふふっ」と嬉しそうに照れて、尻尾をブンブンッと振り回した。
(た、たまらん!!)
そっとソラを地面に降ろすと、俺のマントをちょこんと摘んで、ずっとニコニコと俺を見上げてくる。
(た、た、たまらん!!!!)
俺はソラの頭をひと撫でして、ゆっくりと歩き始めた。
◇
ソラはいろんな話をしてくれた。
まずソラの母親はソラが6歳の頃に亡くなったようだ。すぐに奴隷商に捕まり売られそうになったらしいが、『冒険者』に救われたらしい。
だから、冒険者になれば『導き手』や、助けてくれた『冒険者』、そして『父の空狼眼』や『自分の居場所』が見つかると考え、試験にやって来たと言った。
(な、何か知ってるッ!!!!)
時期的には2年前。その『冒険者』は『冒険者風』の恰好をしていた俺の可能性が極めて高い。聞いた場所と、俺が潜入していた場所はほとんど一緒だ。
確かにあの時は解放してあげるだけで、すぐに奴隷商を連行したので、複数いた子供達の身元などは確認できていなかった。
その中の1人がソラだったんだ。
色々苦難はあったようだが、5体満足で、いま目の前に居てくれるだけで、俺は少し救われた。
「頑張ったな!」
「うん! ソラはベイル様を見つけられてとぉっても幸せだよ!!」
ソラは辛い過去を話す時も、真っ直ぐ前を向いていた。普通の子供なら、泣いてしまっても不思議じゃないのに、時折り俺に微笑みかけながら話をしていた。
(強い子だ……。俺も見習わないとな)
俺は心から感心する。こんな風にずっと前を向けるソラなら、どんな困難にも立ち向かって行けるだろうと思った。
しばらく進むと、誰かが戦闘している事を察知する。だが、にわかには信じられないような状況に、俺は「ん?」と首を傾げた。
(『人』対……『人』?)
明らかに様子がおかしい。寄生するような魔物でもいるのだろうか。
ギュッ……
ソラも異変に気づいたのか、俺のマントから手を離し、俺の手を直接握り締めてくる。
「ソラ。大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ? でも、ソラ、この『匂い』大っ嫌い! 『人間』の欲の匂い……。ソラを『キゾク』に売ろうとした人の匂いに似てる……」
確かに『欲』である事は間違いないが、それは『金銭欲』と言うよりも、『色欲』の方だろう。
きっとこの先にはソラに見せたくないような光景が広がっているはずだ。
(……どこにでも、『こんなヤツら』はいるんだな……)
俺は少し腹を立てる。そんなヤツらは、俺が求め、なろうとしている『冒険者』ではない。
俺は即座に頭を回転させる。
(かなり『順路』から外れているな……。『あえて』か? 先行した『試験官』に報告するのがベストだが、その試験官が『現場』まで行くのが遅い場合、『万が一』があるか……?)
後ろにいる『道案内』の2人はまだこの階層にすらいない。周囲に受験者の数は居るには居るが……、少し心許ない……。
ソラをここで1人にするわけにはいかないし、連れて行っても『現場』を見せなくはない。
それに『現場』に向かうまでに3体の『魔物』がいる。まだ『魔物』がどんな物なのかも把握できていないのに、そんな博打を打つのか……?
ブゥワァアア……
『嫌な風』が頬を刺す。
(……ここは俺が行くしかない!!)
即座にプランを立て、即実行に移す。
ここまでの思考は2秒。2秒のロス……。
(チィッ! 判断が遅い!!)
自分に叱責し、ソラをヒョイと持ち上げる。
「ソラ。困ってる人を助けに行こう! 力を貸してくれ」
「……う、うん!! ソラに出来ることがあればなんでも言ってね? ベイル様!!」
ソラは顔をポッと染め、満面の笑みを浮かべた。
(よし。《超感覚常中》……、《空気壁(エア・ウォール)》、《身体強化》、《超加速》、《脚力強化》……。クソッ!! こんなことになるなら、全ての受験者を『マーキング』しておくんだった!!)
少し後悔しながらも、
ガボッッ!!!!
地面を蹴り出し、『2人』で行ける最高スピードで異変の発信場所に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます