第13話 〜ジャングと"ロウ"〜 ②
※※※
『ロウ・ジュミナール』は、目の前のジャング・ローリエルの『嘘』の多さに疑問を抱いていた。
(狼狽えている……?)
自分の所属する諜報(スパイ)ギルドの長が、これほどまでに狼狽えている様子は初めてだっただけに、ロウは狼狽えている事にすら疑問を抱いた。
ジャングから渡された『報告書』は確実にジャングに書かれた物ではない。
ジャングの冷や汗と不自然な笑み。
そもそも筆跡がまるで違うのだから、嘘である事は諜報員(スパイ)ならば簡単にわかる。
いつも慎重なジャングが、そんな事にも気が回っていないほどに動揺している。
(適当に話を合わせたが、コレは『何か』があったな……?)
ロウは陽気な笑顔を表情に貼り付けながら、盤石のはずだった諜報(スパイ)ギルドが揺らぎ始めた事を確信する。
コンッコンッ
部屋にノックの音が飛び込むと、ジャングは「なんだ?」とドア越しに声をかける。
「ギルド長。国王陛下からの招集が……」
ドアを開け、小さく呟いたのは、何度か見たことのある同僚の女性だった。ロウはニコッと笑みを貼り付けながらもその女性を見つめたまま、ジャングの様子を伺う。
「あぁ。承知した」
ジャングは穏やかに声を発したが、ピクピクッと動いたこめかみをロウは見逃さなかった。
(……『革命軍潜入』なんて危険な仕事に"本気"になるのは愚策だな。適当に探ってるふりをしながら、『次』の就職先を考えた方が賢いか……?)
ロウは心の中でそんな事を考察しながらも、
「またお褒めの言葉ですか? ギルド長!」
と明るい声を出した。
「……ふふっ。どうせ、また厄介事を命じられるだけだろう」
ジャングの言葉にあからさまな『嘘』は見られない。しかしロウはここで『嘘をつかない』事に、確信する。
(あぁーあ。『ここ』は結構気に入ってたんだけどな……。この『泥舟』に乗っていても、美味しくない。それにしても……)
ロウは微笑んだまま、手元の『報告書』に視線を移した。
(……『化け物』だな。一体誰がここまでの仕事を……?)
ロウは諜報(スパイ)ギルド、全ての諜報員(スパイ)を知っているわけではないが、自分が優秀である自負はあった。
この2ヶ月、一切手を抜いて任務に取り組んでいたわけでもないのに、自分が1年がかりで調査しようとしていたそれ以上の物が3日で調べ上げられているのだ。
「それじゃあ、俺はこれで! 増援は3人で大丈夫です! お願いしますね? 失礼します!!」
ロウは頭を下げ、自分の手汗でしっとりと濡れた報告書を手に持ち、部屋を後にする。
「あぁ。頼んだぞ」
後ろからジャングの声が聞こえたが、振り返る事はしなかった。
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