第七殴・部活見学 後編

十分、剣道部の稽古を見続けた。

踏み込みの音とか竹刀が重なってカチャカチャなる音とか、そんな音より。

面でも小手でも胴でも、誰の声よりも。

科宮さんの声が、僕の頭のなかに響いてきた。

流石は科宮さんと言うべきか、殆どの技を決める。殆どの技を受け付けない。応じ技も完璧。

正しくて強い、そして美しい剣道ってこういうものなんだろうなーと、見せられた気がした。

チームメイトの皆も、科宮さんに技をとられた時、まったく憤るような人はいない。むしろ笑って悔しがっていた程。

これが本当のライバルたちで、本当の仲間なんだろうと思う。


一段落ついて、五人さんが面を外した頃。

科宮さん以外の四人が、いきなり立ち上がったかと思えば。

ドタドタと、こっちに向かって走ってきた。

「え!?なに!?」

僕を取り囲んで、かなり近い距離で座り込んだ四人。

そのまま僕に四人は話しかけてくる。

「君がキョウヤくんだね、よろしく。私が剣道部副部長の嘉良 椎南。三年だけど、からちゃんって読んでね」

「私、二年生の濱川 稀瑚です。きこって読んで下さい。同学年だし、よろしく!」

「私も二年の大野 実郷!だいみーって言って!」

「私は、二年生の天津 餐と言います…あまさんとお呼びください…」

「あ…よろしくお願いします…」

いきなり情報過多だけど、みんないい人ばかりでよかった。これが、科宮さんのお友だちか…

と、感傷に浸っていたけれど、四人が「自己紹介しろ」という目付きで笑っているので、圧に負けて従う。

「笹間 兼継です。二年生で、男です。で、科宮さんの彼氏…です…」

いい放った。初めて、人に誰かの彼氏だって言った。

「おお、言ったねぇ…」

「しれっと言えるって、若いねえ…」

孫に物言うようなことを言ってくるからちゃんさんときこさん。

それに乗っかって、遠くで水を飲んでいる科宮さんを、きこさんが大声で呼ぶ。

「おーい、しーちゃん!しーちゃんの彼氏って可愛いねー!貰ってもいいかなー!?」

「ダメえええええ!!!」

貰ってもの「も」の段階でダッシュしていた科宮さん。僕のところまで走ってきて。

僕の肩をぎゅっと掴むと、後ろから強く抱き締められた。

「私の笹間くんだもん…」

四人、ぽかんの表情でフリーズ。

「おお…大胆…」

「若いねぇ…」

「へ!?あ、いや!そんなことないの!ごめんね笹間くん?嫌だった!?」

急激にテレながら問いかけてくる科宮さん。

「ううん、むしろ…嬉しかったよ!」

そう返したら、また四人がぽかんでフリーズ。

「おお、満ち足りてるね…」

「若いですね…」

科宮さんが超絶真っ赤になっていて。

それが、トリガーだった。

「さ、さっ…笹間くん!」

「はい!?」

名前を呼ばれて、ビシッと背筋を伸ばす。

次の瞬間。

「そんなの....テレるじゃない!!!」

どごん

「ぐふぅっ!?」

腹パンが飛んできた。

くらくらする。意識が危ない。

「科宮さん…強い…」

がくっ。

意識がシャットダウンした。

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