第2話 種明かし
「今日、こちらにお集まりいただいたみなさんは、どうしてここにいるか気が付いているでしょうか」
場内にマイクの音声が響き渡った。
男の声だ。地下だから反響がすごい。
みんなは顔を見合わせた。
「結婚式の代理出席のためのバイトです」
1人の人が言った。
「違います。みなさんは、ここで過去の罪を精算するために呼ばれたのです・・・」
「え?」新婦は声を上げた。「どういう意味ですか?」
さっきまで変わった女を演じていたが、素になるとごく普通の人だった。
表情も姿勢もおかしい所は何もなかった。
「新婦。あなたは、2010年に舞台をドタキャンして、公演に穴をあけましたね。急遽代役で開演したけど、舞台は大失敗だった。その時の損害は500万円。座長が首つり自殺をしてしまいましたね!」
「あ、あれは盲腸の手術があって・・・」
「そんなの嘘です。中絶手術をしたでしょう!」
「稽留流産したからです」
「アダルトビデオに出演して、撮影の時にできた子供ですね」
「・・・」
新婦は黙った。そんなにきれいな人でもなかったから、みな意外に思っていた。
「看護婦!」
「はい」
「あなたは、患者を見殺しにした」
「いいえ」
「あなたは点滴を間違えて、患者を死なせてしまったでしょう・・・」
「もう、危篤状態だったので・・・。あれがなくても亡くなっていました」
「反省もしていないとは・・・絶対許さない!」
「新郎!」
「はい」
「お前は、未成年のファンの子に手を出して、裸の写真を撮影し、警察に行ったらネットに拡散すると脅したでしょう」
「いいえ・・・俺たちは付き合ってました」
その話を聞いて、Aさんは急にその男が軽薄に見えて来た。
イケメンは30で売れていなかったら、もう後がないだろう・・・。そうだ。それでいいんだ。Aさんは思った。
出席者の罪のほとんどは、人が亡くなった原因を作っているというものだった・・・。交通事故、パワハラ、いじめなどもあった。
そうやって、参加者の罪が次々と暴かれていく中で、最後に残ったのがAさんだった。自分はそんなに悪いことをした覚えはなかった。
「最後のお前!」
「はい!」
Aさんは姿勢を正した。
「お前は信仰を捨てて、他の宗教に鞍替えしただろう!最も重い罪だ」
「主人が浄土真宗なので・・・」
「絶対許さん。地獄に落ちろ!」
急にAさんは、めまいを感じた。それに吐き気もする。なんだろう・・・変な物を食べたのかな。食事に毒でも入っていたんだろうか・・・。
目の前がかすんでいく。他の人たちもテーブルにうつ伏せになっている。
気持ち悪い・・・だんだん意識が遠のいて行った。
以上が、都内の結婚式場で起きた一酸化炭素中毒事故の時の模様だそうだ。
調理にガスコンロを使用していて、不完全燃焼があったようだ・・・。
助かったのはAさんのみ。
でも、Aさんは事故の後遺症で記憶障害を患っている。
結婚式場で起きた、謎のアナウンスについて警察に訴えたがAさんの幻覚と言われて一蹴されてしまったそうだ。Aさんは代理出席のバイトとしてあの場所にいたが、あの時の、代理出席の人たちがどうやって集められたかは、Aさんには知らされなかった。
劇団員などが多かったから、恐らく口コミで集められたんじゃないかとAさんは思った。あの時の犯人は誰なのか・・・牧師だろうか。Aさんは毎日考えているが、翌日になるとすべて忘れてしまうのだった・・・。しかし、カメラに写真は残っていたそうだ。写真に写っていた人たちは・・・偽りでも、新婦の結婚を祝っていた。そして、Aさんはまた1から考え始める・・・。
私はあの日・・・。
代理出席 連喜 @toushikibu
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