代理出席
連喜
第1話 謎の結婚式
俺はあまり結婚式にあまり出たことがない。
大学の友達とはもう会っていないし、会社を何回もやめているから、同僚と深い付き合いがない。今の会社では管理職だけど、今の若い人は披露宴をあまりやらないし、コロナで式が延期になった等で全然呼ばれない。
でも、式に呼ばれたとして、1回5万も包むのは痛い・・・。
そんなに親しくない人から、結婚式に呼ばれたくないと思っている人は多いかもしれないが、俺の場合は、呼ばれてもいいけど、呼んでくれる人がいないんだ。ちょっと寂しい。
下記はネットで拾って来た話だ。
結婚式の代理出席のバイトをしている、Aさんという30代半ばの女性がいたそうだ。新婚さんで、子供ができるまでの間だけ働こうと思って、派遣をしていた。Aさんは派遣だけだと給料が安いと感じていたから、土日にアンケート調査に協力したり、新商品の座談会に出たり、結婚式の代理出席をしていたそうだ。
みなさんも知っているかもしれないけど、結婚式の代理出席のバイトというのは、出席者が足りない場合のサクラだ。出席者が急に行けなくなってしまった時や、招待できる友達が少ない、再婚だからもう一回同じ人を呼びづらい、上司に頼みづらいなど・・・色んな理由から需要があるらしい。
このバイトは披露宴で高級料理を食べられて、引き出物とバイト代をもらえる。その代わり、役になりきるための演技力が求められるとか。一番仕事があるのは、男性は20代後半、女性は20代だそうだ。結婚年齢から考えて、20代のカップルの披露宴が多いからだろう。だから、30代のAさんには年に2回くらいしか依頼がなかったそうだ。
ある時、Aさんに仕事が入った。それは奇妙な結婚式だった。
新婦の母以外は全員代理出席というものだった。
場所は港区にある教会。
まず、新郎も偽物だった。しかも、年下のイケメンを希望していたようだった。新婦は40歳くらい。メガネをかけていて、テンションがおかしかった。変わった感じの人で、普通に会ったら友達にはなれない感じだったらしい・・・。
お母さんは70近いごく普通の人だった。Aさんにとっては自分の親世代なので好感を抱いていた。娘はずっとはしゃいでいたから、変な子でお母さんも大変だろうな、とAさんは思った。
偽装結婚式をやるのも、娘さんが早く母を安心させてあげたいというのだったらわからないでもないが、そんな感じでもなく・・・。どうやら、お母さんがその式のお金を出してあげていたようだ。だから、やらせだと知っている・・・。娘の晴れ姿を見たかったのかな・・・、とAさんは思った。
新婦は半分ニートのフリーターだが、仕事が続かない。友達もいないから、招待できる人が誰もいないようだ。今後も結婚する予定はないが、従弟の結婚式に出た時に、自分もウエディングドレスを着て結婚式をやってみたくなったということだった。派遣会社からは、結婚式の趣旨に違和感を感じるかもしれないが、顔に出さないようにと言われていた。
新郎と新婦の友人はそれぞれ5人づつ。そんなに仲良くなくても、呼べば誰かしら来てくれる人はいるんじゃないかと思うが、架空結婚式の件を人に言いたくなかったんだろうか。・・・兄弟もいないらしい。
ということで、親族はお母さんだけ。新郎新婦のおじ・おば役の人たちと代理出席の学校の先生2名で1テーブル。
新郎、新婦それぞれの友人役がスピーチをやった。
新婦は高校卒業後に就職して、人間関係で病んでしまってからは引きこもりだったが、スピーチを頼まれた人は高校時代の友人ということにして、うまくまとめてくれていた。
新郎のプロフィールは、2年前にバイト先で知り合った社員の人という設定になっていた。勤務先は物品倉庫。30歳で大卒。大学の時の友人役がスピーチをしてくれた。
「僕は新郎の大学の時の友人です」
その人もイケメンだった。新郎もその友人も役者を目指している人だった。
「これからは、素敵な新婦の〇〇さんと、暖かい家庭を築いてください。〇〇さん、親友の○○君をよろしくお願いします。一人っ子でわがままなので、たまに扱いづらい時がありますが、そんな時は、好物の酒を飲ませれば機嫌が直ると思います」
と、白々しいスピーチだった。
その場にいた全員が虚しさを感じていた。独身なのはともかく、40まで生きていて、友達が一人もいなくて、親戚にも連絡取りづらい感じなんだろうか・・・。お母さんもこんな娘でかわいそうだな・・・。
それから、新郎の友人による余興でギターと生歌があった。
歌がうますぎて、新婦の友人役の中には、感動して泣いている人もいたそうだ。
Aさんも、新婦とお母さんが喜んでいるならいいと思った。
その後、子供の頃からの写真がスライドで上映された。それによると、中学校でお父さんが自動車事故で亡くなってしまい、その後は、お母さんが看護師をしながら女手一つで娘さんを育てたそうだ。大変な時期もあったが、今は新婦の〇〇さんもアルバイトができるようにまでなった。2人の思い出の写真が次々にスライドで映し出されて、最後は新婦から母親への手紙が朗読された。
「お母さん、産んでくれてありがとう」
新婦の母親を見ていると涙を流していた。
他の出席者も大半がもらい泣きしていた。
いい式だった。出てよかった、とAさんは思ったそうだ。
すると、音楽がいきなり止まった。
そして、スライドに文字が現れた。
『みなさん、今回のお仕事はドッキリです』
『新婦とお母さんも実は赤の他人です。みなさん、お疲れ様でした!』と書かれていた。
実はそこにいた全員が騙されていたんだ。
みんなびっくりして、あたりを見回した。
テレビ番組の企画だろうか。
代理出席の人たちは顔を見合わせて苦笑いした。
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