第13話
「——って感じです」
一通りここまでの経緯、事実を話すと、吉川さんは「むふふ」と笑いながら、
「なるほどなるほどー。謎は全て解けた!」
と、僕を指差した。
「なにか探偵物の漫画の読みすぎじゃないですかね……」
渾身のドヤ顔を見せた吉川さんは、挑戦的な目で俺を見てくる。
ただ、すぐに「あ、やっぱり」と思い直したようで、今度は人差し指を顎に当ててなにかを考え始める。
「……ただねぇ、まだハマってないピースが一つあってさー」
それから吉川さんはベッドに大の字になって寝転んだ。
なんて無防備な……。僕じゃなかったら確実に襲われていただろう。
「なんですか、そのハマってないピースって?」
「ま、取るに足らないことなんだけどねー」
「そうですか……。それよりその解けたっていう謎の真相を教えてくださいよ?」
「いーや。こういうのはね、自分で解決するから面白いんだよ」
「面白さとか求めてないんで答えをください」
「欲しがりサッくんだねー。そんなにわたしがほしい?」
「変なあだ名つけないでくださいよ……。あと、あんたが一番いらん!」
吉川さんは急に起き上がると今度は胡座をかいた。
ワイシャツの裾から黒い下着が丸見えだが——気にしない! 気にしたら負けだ!
「とりあえずヒントはあげるから、あとは自分で推理してみてよ」
「はぁ? ヒントですか?」
「まず、サッくんの今の状況。なにが引き金になった?」
「えーっと——僕の誹謗中傷的なグループLIMEですかね?」
「誰が回したのかはこの際関係ない。むしろサッくんは男女の交際を取り持った分、いろんな人から恨まれている可能性があるからねー」
「それは——やっぱり僕のせいでしょうか?」
「せいとかじゃなくて、単純に逆恨みと集団心理の利用と条件付け」
「逆恨みは河合先輩にも言われましたが、集団心理の利用と条件付けって?」
「人間が結束するために必要な要素ってなにかわかる?」
「えーっと——目的とかですか?」
「そ。善であれ悪であれ、その目的が合致するのなら関係ない——ほら、呉越同舟って言うじゃない? 仲の悪い者同士も目的の達成のためなら手を取り合うものなの」
「はぁ……?」
「それと条件付け。犯罪を犯す人って、自分なりの正義感や論理が根底にあって犯罪に走るの。例えばサッくんはお腹が減っていたとしてお店のものを盗ったりする?」
「あ、いえ……」
「じゃあ——仮にお腹がすきすぎて今にも死にそうな大事な人がいたら?」
「うっ……」
「しかも、そのお店の店主が実は悪人で人から恨まれたりしていたら?」
「そ、それでも盗りません……」
「でもほら、迷ってるじゃん」
なるほど……。
盗んではいけないという前提ルールに対して、都合のいい条件が重なれば前提が崩れることもあるってわけか。
「つまりだよ? 今回の件はサッくんに逆恨みしていた人たちにとってはいいきっかけになったわけ。ムカつくやつが失敗して都合よく『悪い噂は流してはいけない』という前提を崩す条件付けが成立した。榎本さんとかいう正統派ヒロインを傷つけたという事実。あとは集団心理が働いて、サッくんの悪い噂が一気に広まったというわけさ!」
「なるほど……」
「ここまでの話の流れだと、サッくんに恨みをもった誰かが悪い噂を流したと考えるべきだよね?」
「はぁ? ふりだしに戻りましたね——」
「だがしかーし!」
吉川さんは人差し指をピンと立てた。
「その推測がまるで見当はずれだったら?」
「もしかして愉快犯的なほうですか? 噂を流したのは面白半分だったと……」
「ふっふっふー。まだまだ甘いねサッくんはー。もうちょっとその犯人の真の狙いを突き詰めないとー……。それができたら彼女の一人でもできるんじゃないかなぁ?」
「くっ……いい加減腹が立ってきたのでそろそろお引き取り願えないでしょうか?」
「ああん! やだぁ! もうちょっと浸らせてよー!」
「ほらみろ! あんたやっぱり楽しんでいただけじゃないか! 早く帰れ!」
俺は吉川さんを無理やり玄関から押し出した。
『サ、サッくん? わたし家の鍵閉めて出てきたんだけど! ベランダから入ったから自分の部屋の鍵持ってないんだけど! ねぇ聞いてるっ? サッくん! サッくぅーん!』
さて、もう少しじっくり考えてみよう。
犯人の真の狙いか……。
確かに僕を陥れてなんになるんだろうって思うなぁ……。
とりあえず僕が得た情報をもとに推測してみるか。
——プルルル、プルルル……
ん? 一条くんから着信?
「はい、もしもし」
『あ、友田くん? なんか連絡もらってたみたいで悪いな。あ、それと今日は——』
「噂の件なら気にしてないから大丈夫。それより一条くんは大丈夫? 変な噂とか流されてない?」
『ああ。俺の方は大丈夫みだいだった。というよりゴメンな、その——俺、花音と付き合うことにしたから』
「あーいや——それはいいんだ。榎本さんはショックみたいだったけど、一条くんと高橋さんが結ばれたなら……」
『ありがとう。友田くんって、ほんと良いやつだよな』
「なんせこちとら仲人キャラですからね」
『え? 仲人キャラ?』
「いやこっちの話。とりあえず僕は心配ないから、またなにかあったら連絡するね」
『いろいろとサンキュウな。それじゃ!』
一条くんこそ良いやつだよな……。
高橋さんとお幸せに。
ドンドンドン! ピポピポピンポーン!
『サッくぅーん! サッくぅーん……』
おっと。そろそろ入れてあげないとさすがに可哀想か。
反省しているといいんだけど……。
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