1 - 第一章 「もっとも永く続く愛は、報われぬ愛である」…だそうです
第1話
「ダアッハハハー! それでけっきょく榎本と一条をくっつけることにしたのかよっ?︎」
「うるさいなー……。そんなに笑うことないだろ? 人が傷心のときに……」
榎本さんの件があった翌日の四月二十一日の昼休み。
ことのあらましを聞いた
哲太はこの学校で一番話す友達——もとい腐れ縁だ。この高校にも「一緒に受けようぜ!」というノリで一緒に受験した。
それでもって、非リアな僕らはたまにこうして一緒に過ごしている。あとはたまに休みの日にゲームをする仲というだけ。
ちなみにこいつ、イケメンのくせに彼女を作らないイケメンの無駄遣い野郎だったりもする。
まあ、べつに悪い奴じゃないからいいのだけれど、まったくモテない僕としては、もっとイケメンを有効活用しろって思う。
「ダハハハハー——ガハッ、ゲボッ、ゴホッ!」
笑いすぎてベンチから落ちやがった。
いやさすがに笑すぎだろ……。
「なにがそんなに面白いんだよ?」
「お前、また今回も自分の好きだった子だろ? そりゃ傑作だわ! ダアッハハハー!」
「僕は今、哲太に言うんじゃなかったって激しく後悔している真っ最中だよ……」
「アホ! こんな面白いネタを封印してどーするよ親友っ!」
親友ならもっとちゃんと慰めてくれ。そして女の子を紹介してくれ。
「にしたって作太郎、その仲人キャラ体質なんとかならんかねー?」
「なんだよ仲人キャラって? 新ジャンル作るなよ……」
「だってお前さー、中学んときから一緒じゃん? せっせせっせと男女を仲介するくせに、自分はいまだに彼女一人できてないもんな?」
「うっ……」
「しかも好きになった子が別のやつのことを好きになって、んでお前が仲介役するとか、どんだけお人好しなのって感じ。なに? もしかして、そういうネトラレ的なのに興奮する性癖なわけ?」
んなわけあるか、と僕は哲太に思いっきり肩パンを食らわせた。
日頃からバスケで鍛えている哲太には通じないらしく、哲太は「オー! イテテ!」というわざとらしいリアクションをして、また大笑いしている。
それにしても仲人キャラか。僕は主人公にはなれないのかよ!
……ただまあ、哲太の言うことも一理ある。
僕は誰かを好きになるたび、その子はすでに別の誰かのことを好きになっていて、なぜか僕が他人への告白を聞かされるんだ。
そして、結果的にその子と別の誰かをくっつけるお膳立てをしている。
その成功率は驚異の九割弱——いや、自慢することでもないのだけれど……。
そういう評判が立ってからというもの、話したことすらない人たちからも『学園最強の恋愛マスター』と謳われて、連日僕の放課後は恋愛相談で大忙しだ。
ちなみに、以下は哲太が聞いたという僕の評判である——
『え? 三組の友田くん? もち知ってるよ! わたし、彼のおかげで大好きだった●●君とも付き合えてるからマジ感謝!』
『ああ、友田か……。うちの告白はダメだったけど後悔はないさ。それよりも後押ししてくれた友田には感謝だね。やつにはほんと感謝しているよ』
『『わたし(俺)たちー、友田くんのおかげで幸せになりましたー!』』
——えーっと、僕の幸せはどこにいった?
「で、榎本の件はいつから始めんだよ?」
「もうすでに進行中。一条くんの身辺調査もだいたい終わって、一条くんとも知り合いの伝手でLIMEを交換したところ」
「さすが学園最強の恋愛マスター様だな。手が早いことで」
「それ、完全にバカにしてるよね?」
「うーんにゃ。むしろ感心してんだよ。お前ってさ、つまるところ好きなやつに振られてるわけじゃん? それなのにそいつの恋の手助けとか——俺には絶対ムリ! あ、やっぱ引くわー」
「あーっそ……」
僕がむくれていると、にやけ面だった哲太が急に真面目な顔になった。
このギャップ、女子だったらキュンとしちゃうかもしれないな。今度真似してみよう。
「……ところでお前さ、なんでそこまでできるわけ? 俺には損してるとしか思えないんだけど?」
「損得で物事を考えていないだけだよ。好きになった子が幸せならそれでいいんじゃないかな?」
そう言うと、哲太は無言のまま僕をまじまじと見つめてきた。
「なんだよ?」
「お前ってさ……」
「うん?」
「ほんっと人が良いのなっ!」
「そこはせめて良い人って言ってほしかったな……」
* * *
放課後になった。
僕は一条くんと直接会って話すことになっていた。
場所は特別棟二階の空き教室。なぜかここは『恋愛相談室』なんて陰ながら呼ばれているらしいが、明らかに僕のせいだったりもする。
先に入って待っていると、しばらくして一条くんがやってきた。
「えっと、しつれーします」
「ああ、どうぞ気にしないで。少し散らかってるけど」
一条くんには僕の対面に座ってもらった。
「こうして会って話すのは初めてだよね? はじめまして友田作太郎です」
「は、はじめまして、一条輝です。お、お願いします。」
改めて一条くんの顔を見ると爽やか系のイケメン。
やや長い髪にふわっとパーマがかけられていて男性アイドルグループにでもいそうな雰囲気。
事前に入手した情報によると、もちろん今付き合っている女子もいないし、これまでの恋愛遍歴にも悪い点は見つからない。
現在はサッカー部の部員で、補欠だけど練習熱心。正義感があって、真面目で人当たりもいいらしいし、それでいて嫌味なところもない。交友関係もいい感じ——つまり、主人公タイプ。
彼なら榎本さんが好きになるのも頷ける。
そうなんだ、頷けちゃうんだ……。
主人公とヒロイン……なんてお似合いな二人なのか。
「このイケメンがっ!」
「えっ? いきなりなにっ?」
「あ、いや……。持病の発作で。たまにあるんだ。ごめんね」
「はぁ……?」
……一旦落ち着こう。
「時間もないから手短に話そう。一条くんに朗報があるんだ」
「友田くんに呼び出されたってことは、そういうこと?」
「うん。実は一条くんのことを好きな女子がいてね——」
実は僕が好きだった女子だったんだけどねー、なんて恨み言は言わず、
「——二年一組の榎本小晴さん。知ってるかな?」
「え? マジで? 俺も榎本さんのことは前から気になってたんだ!」
あ、両想いなのね? はいじゃあ決定ー……。
今回楽勝だったなー、あははは……。
「告白は明日の放課後でもいい? いちおうサッカー部はオフのはずだけど」
「え、明日っ? も、もちろん! つーか、よくサッカー部の予定とか知ってたね?」
「ん? まあね。あはははー……」
僕は校内の部活動の活動予定をほとんど把握している。なんなら練習試合の日程なんかもだ。
情報収集とスケジュール管理は依頼者の信頼を得るために必要なスキル。
できる男は違うのだ——と言いたいところだけど、たいていこの話をするとどん引かれる場合が多い。
そもそも僕は部活動にすら入っていないのだけれど……。
* * *
一条くんと軽く打ち合わせて別れた後、僕はLIMEで榎本さんに報告した。
『サクタロー:一条くんも乗り気みたいだよ! 告白は明日の放課後で! あと、一条くんは甘い物が好きだって言ってたから、差し入れはお菓子がいいんじゃないかな?』
——送信っと。
するとすぐに榎本さんから返信がきた。
『小晴:本当? ありがとう友田くん! じゃあ、明日の放課後、思い切って告白してみる! 甘い物、なにがいいかなー?』
榎本さんの質問に答えつつ、他にも一条くんについて知っている情報からアドバイスを送る。
榎本さんから最後にありがとうのスタンプが届くと、僕らのトークはぴったりと止んだ。
「ふうー……」
僕は誰もいない教室で一人、窓の外を眺めた。
外では運動部の部員たちが汗を流して青春を追いかけている。
「なにやってんだろうな、僕……」
なんだか虚しさが込み上げてくる。
ま、これが自分に課せられた仲人キャラの宿命ってやつなら仕方のないことなのかもしれないけれど……。
ちょうどそのとき教室の扉がガラリと空いた。
見れば、うちのクラスの男子連中の間でも『眼鏡を外したら美人』と評判の五組の
彼女はうちの学校ではめずらしく、制服をきっちりと着こなす優等生タイプ。
唯一のオシャレポイントであるシュシュで長い黒髪を束ねている他は、化粧っ気もない。
言い方が悪いかもしれないけど地味。
目立たない美少女——というより目立ちたくない美少女といった感じ。
生徒会書記っぽいイメージだが、実際は図書委員だ。
「えっと……友田くん? わたし、五組の高橋だけど——ちょっとお願いがあって……」
恋愛相談室に来た段階で答えはもうほとんど決まっている。
「わかってます。……で、お相手は?」
僕はにっこりと作り笑いを浮かべた。
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