学園最強の恋愛マスター友田くんは二度同じ人を好きにならない
白井ムク
第一部 「二度同じ人を好きにならない」
1 - プロローグ
四月二十日、晴れ。
放課後——夕日に染まる校舎。
柔らかな春風が吹きぬける屋上。
地面に長く伸びた二本の影が向かい合い、かすかに揺れている。
一つは僕、そしてもう一つは僕の目の前に立っている女の子のもの。
彼女の名前は
「えと、そのー……」
さっきから彼女は後ろ手をもじもじとさせながら、ようやく口を開いたと思えばまたつぐむ。その繰り返しだ。
顔は耳まで赤くなっているが、これは夕日に染められているせいだけではないらしい。
そう——彼女はこれから口にしようとしている言葉の前にひどく緊張しているんだ。
「ちょっと恥ずかしいんだけど、聞いてくれる?」
いよいよか。
僕は小さく頷いてから榎本さんの次の言葉を待つ。
実は、僕は榎本さんのことが好きだった。
セミショートのさらさらな髪も、くりっとした大きな目も、可愛らしい唇も——そして誰にでも分け隔てなく接する優しさも……。
きっと彼女に関わった男子の十人のうち九人は彼女のことを好きにならずにはいられないだろう。
それくらい榎本さんは可愛くて魅力的な子なんだ。
僕としては、そんな彼女からまさか放課後に呼び出されるとは夢にも思わなかったのだが——いや、本当は心のどこかでこんな日が来るんじゃないかと思っていた。
この想定は決して自惚れなんかじゃない。僕の経験則によるものだ。
もどかしい時間がしばらく続く。
——果たして、その時は訪れた。
榎本さんは深呼吸を一つして、潤んだ瞳で僕の目をまっすぐに見据える。
「あのね、わたし……」
覚悟を決めた榎本さんの表情に、思わず僕の心臓が高鳴る。
「わたし、
「……そっか」
「本当に大好き! 一年のときからずっと……」
「うんうん、なるほどなるほどー」
「もし一条くんがOKなら、わたしと——付き合ってほしいのっ!」
「へー。そうなんだー」
榎本さんの一世一代の告白。しどろもどろで、甲斐甲斐しくも美しい。
対して僕の反応は、冷めているようでもあり生暖かくもある。
どうしてかって?
そりゃそうだろっ!
だってさぁー……——
「お願い友田くんっ!
そうなのだ。
僕は一条輝くんじゃなくて
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