第5話二人の聖女候補
この世界は一度破壊され再生されたという神話から始まっている。
最初、神々と人間は共に暮らしていた。神々の殆どは天上界に住み、人間は地上世界で生活していた。
神は人間を愛しみ、人間は神を敬った。
長い年月の中で、人間は知恵を付け、あらゆるものを作り出せる力を発揮し、神々を喜ばせた。神々は人間たちに褒美として「魔法」を授けた。
神に近い力を授かった人間たちは次第に横柄になっていく。
そして遂に、人間たちは禁忌である神の領域に無断で踏み込んでしまったがために、神罰を受け、世界は一度消滅してしまった。
だが、人間を愛する神によって再生のチャンスを与えられた。
一方で、神々の大半は人間に懐疑的であった。自分たちを裏切った人という生き物を信用出来なかったため、人間に試練を与える事にした。
人間たちから「魔法」の力を奪い、言語を奪い、人類共通の敵を創ったのである。
再生後の世界に人間たちは「魔法」の代わりに「魔力」を持つようになった。
魔法と魔力。似ている様で全く違っている。
魔力は、魔法を使える力があるだけで、実際には使用できない。
その代わり、無機物の物を媒体にして魔法に近い事が出来るようになる。
ただし魔力を持つ者は限られた。
神々は人間を自由にし過ぎたと反省し、人間が人間を管理し易くするために
魔力を得た人間たちが、後に、国を造り、王族と貴族になった。
また、世界中の言葉をバラバラして人間が結束しにくい状態にした。
最後に、人類の敵である「魔獣」を創った。
魔獣の主食は「人間」である。
そのため、人を襲って食べる。
人間は魔獣から身を守らなければならない。
人間を愛する神は神託を授けた。
――神々が創った魔獣を
聖女は他とは違う聖なる魔力を持つ者。
聖なる魔力の持ち主は数名しか生まれない。
そのため、神託で認められた者が「次世代の聖女」である。
聖女が祈りをささげる事によって、人間の住む場所に魔獣が来れない結界を張ろう――
こうして、世界中の国々では聖女を保護してきた。
サリア王国の聖女候補は二人。
一人は、公爵令嬢のメディーナ。
もう一人は平民出身のリブ・グラ―ケであった。
「確かに庶民が聖女候補になるのは珍しいのぅ」
「そうなのよ!何かの間違いと思っていたけど……あの女に聖魔力が宿っている事は本当よ」
「神殿が調べた結果じゃからな。間違いはないじゃろうて。聖女候補の審判も受けたのじゃろう?」
「ええ。水晶の間に入って宣言を受けたから間違いないわ。まったく平民の聖女候補など前代未聞だわ。神殿の関係者も慌てふためいていたし……」
「仕方あるまい。魔力を持つのは貴族のみと決まっておる。それが根底から覆るかもしれないのじゃからのぅ。もっとも、その娘が何処かの貴族の御落胤か、はたまた貴族の血が何処かで入っているという場合も考えられるがのぅ」
「孤児院育ちよ。生まれた時から孤児院で生活していたから親の顔も知らないそうよ。職員の方にも探りを入れて見たけど、生後間もなく孤児院の玄関に捨てられていたようで、身元を証明する物は何もなかったらしいわ」
「それなら御落胤の可能性は十分あるのぅ。屋敷の主に手籠めにされたメイドが秘かに産んだケースも考えられるし、本妻の勘気から逃れるために愛人が赤子を手放す事もある」
「随分詳しいわね」
「ほぉほぉほぉほぉほぉ。商売柄、色んな情報が入って来るもんじゃ」
楽しそうに語っているジェルマンは、愛人を殺すための道具や、子供がいないばかりに生まれたばかりの愛人の子を殺す道具を求めた貴婦人たちを思い出していた。
身元不明の平民の聖女候補が貴族の血を引いている可能性は大いにあった。
「じゃが、姫様。
ジェルマンはあえてメディーナの禁句に言った。
ループを繰り返しても王太子に断罪され婚約破棄される公爵令嬢は巻き戻りの元凶である悪名高い魔術師に損害賠償を突き付ける つくも茄子 @yatuhasi2022
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