第4話王妃の事情
今代の聖女に選ばれた王妃殿下。
彼女は子爵家の出でありながら王妃になった。
国王陛下が聖女であった王妃に恋し、病に陥るまで恋焦がれてしまった結果の婚姻。
明らかな貴賤結婚である。
他の王族や高位貴族がそんな王妃を認めるはずがなかった。
幾ら聖女であるからといっても、王妃と聖女は別である。
『聖女としての敬意は払えても、王妃としての敬意は払えない』
それが王族と高位貴族が出した答えであった。
彼らは、王妃として相応しくない女性がその座に就いた事を許せなかった。
国王には婚約者はいなかったが、候補者は数名いたのだ。
身分、血筋、容姿、教養。
どれを取っても王妃に相応しい姫君たち。
これで、王妃が立派に公務をこなしていれば時間はかかるが、いずれ、皆が認めるようになっただろうが、残念な事に王妃は結婚後も公務には不参加が続いた。
公務に参加しない、のではない。
公務に参加できない、が正しかった。
王妃の妃教育は匙を投げられるほど酷かったからだ。
それでも聖女の役目は全うしていたので神殿の後見はあった。
ただ、神殿は飽く迄も
待望の王子。
世継ぎの王子は六歳になっても立太子出来ないままであった。
イアン王子を王太子にするために国王夫妻は公爵家に頭を下げてメディーナの婚約者に据えて貰ったのだ。メディーナと婚約する事でイアン王子は漸く王太子の位に就くことが出来たと言っても過言ではない。
公爵家は社交界シーズンの12月から翌年の8月は王都の滞在する。
もっとも、他の貴族より滞在期間は少なく、長くても五ヶ月程であったが、その期間、メディーナとイアン王太子は交流を深めていった。
メディーナとイアン王太子の仲は順調であった。
元々二人は従兄妹同士でもあったが、年齢以上の大人びていたイアン王太子が何かとメディーナに気を遣っていたも上手くいっていた理由の一つだろう。
その関係がおかしくなったのは学園に入学してからだ。
サリア王国の貴族は十三歳から十八歳までの期間を王都にある貴族専用の学園に通う事が義務付けられている。
当然、メディーナとイアン王太子も入学した。
残念ながらクラスは互いに別れてしまったが、これは学園側の配慮によるものだった。
学園側としては、王太子殿下と筆頭公爵令嬢の二人を同じクラスにしてしまうと貴族関係のバランスが崩れかねないと憂慮したのだ。
王家と公爵家にすり寄りたい貴族は数多いる。その上、メディーナは「聖女候補」でもあったのだ。
学園の均衡を崩さない為にも二人を離れさせたのだが、それが良くなかった。
イアン王太子がクラスにいるもう一人の「聖女候補」と恋仲になってしまったのだ。
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